2012年 11月 23日
利己的な遺伝子 |
本屋に立ち寄ったら、科学書コーナに「利己的な遺伝子」の新訳本が積上がっていたので、なつかしく手に取ってしまった。リチャード・ドーキンスの標題の本(1976年初版)は有名なので、名前を聞いたことがある方も多いと思われるが、お読みになっていない方のために、昔メモしたポイントをちょっとだけご紹介を。
ーーーーーー要約ーーーーーー
(1)すべての生物は、DNAからなる自己複製機能を持つ遺伝子がそこに住むための生存機械(Survival Machine)として定義される。遺伝子は、生き残るために、それぞれの進化的安定戦略(Evolutionarily Stable Strategy―ESS)を持っている。すべての生物の行動と進化は、遺伝子がこのESS を行使した結果として説明することができる。
(2)生物の親子関係、オスとメスの関係と子育て分担、ミツバチ社会の滅私奉公、動物の群れ行動と単独行動、集団における自己犠牲といった、生物に見られる利他的行動は、かつての自然淘汰進化論では説明できなかった。「自己中心で自己を繁殖させることのみを至上目的とする利己的遺伝子の持つ生き残り戦略」という概念を用いることにより、これらの生物の不可解な行動のほとんどを説明することが可能となる。
(3)遺伝子の性質をこのように規定すると、進化の過程(どの遺伝子がどのくらいの割合で子孫を残せるか)を、ゲームの理論を利用してシミュレーションすることがきる。
例1)タカ(的な性質)とハト(的な性質)は子孫をどれだけ残せるか?
タカどうしは戦闘しお互いに傷つけ合う。ハトどうしは何もしない。ハトとタカが出会うとハトは負けるが、傷つく前に逃げ出すことも可能。この条件にて、ハトとタカを共存させてどのような比率になるかを進化シミュレーションした。結果はハト42 %、タカ58 %という点で集団の進化的な安定点が得られた。
例2)いくつかの戦略モデルを競合させてどれがもっとも進化上有利かを調べてみた。
・常に攻撃する(好戦的)
・常に攻撃しない(平和的)
・攻撃されたらはじめて応分に報復する(気のいいNice guy)
・2回攻撃されたらはじめて報復する(寛容的 Nice guy)
・報復はするが短期の記憶しか持たない(あっさりNice guy)
・攻撃された記憶は最後まで保持され、忘れた頃に報復する(恨み屋)
・ときどき思い出したように攻撃する(気まぐれ屋)
・状況を知るために試しに攻撃してみる(試し屋)
・その他のバリエーション
15 の戦略パターンによって生き残りシミュレーションコンテストを実施したところ、第1位は気のいいNice guyであり、上位8つはすべてNice guyのグループに入るものであった。意地悪グループに分類されるもの(好戦、気まぐれ、試し屋)は高得点を得られず、また、最下位は最も手のこんだ戦略を用いるものであった。
(4)遺伝的進化は自己複製(レプリケート)を本質とする遺伝子によるものである。生物(特に人間)にはもうひとつ、文化的進化と呼べるものがある。文化的進化を起こすものは、伝達を伴う自己複製機能である。それをになう自己複製子をミーム(Meme)と名付ける。人間の脳はミームの住みつくコンピュータとも言える。我々が、死後に子孫に残せるものは遺伝子とミームである。ただし、人間の脳には、これらの利己的な自己複製子たちの専制支配に対抗できる力があるものと信じたい。
ーーーーーー要約終わりーーーーーー
この邦訳(1991年版)によると、欧米では思想界、教育界を巻きこむ大論争を呼んだ話題作であったそうである。色々示唆する内容に富んだ大書でもあるが、私が一番印象的に感じたのは、ドーキンスの仮説から導かれる結果、すなわち「究極の利己主義が利他的行動を生む。」と「単純で気のいい戦略が進化の上では最も有利である。」という2 つの結論であった。
前者は、人間の生き方にも通ずるように感ずる。賢い人は、他人を助けてその結果が何倍もの自分の利益(満足感や幸福感も利益と勘定して)となって戻ってきて幸福になっていく。自分が不幸になるような利他的行動をするということは、世の中にはあまり無いのではないだろうか(不幸の定義にもよるが)。古人も「情けは人の為ならず。」とちゃんとことわざに残している。
一方、単純で気のいい戦略というと、米国を思い浮かべてしまう。米国は、外部から侵略されひどい目に合わされたという経験が無いため、国家としては基本的には単純で人がいいようだ。単純で気のいい戦略が最も生き残る可能性が高いというシミュレーション結果は大変興味深い。ソ連は崩壊したが、米国は種々の問題を抱え込みながらも、これからも、ずっと世界最大の一等国であり続けるのではないだろうか。
ドーキンスの主張が、30数年経っても色あせないのは、生物学における学問的な価値のみならず、人間や国家の振る舞いまでをも、説得力ある科学者の言葉で表現し得ているからではないのだろうかと感ずる。(これはあくまで私見であるが。)
ーーーーーー要約ーーーーーー
(1)すべての生物は、DNAからなる自己複製機能を持つ遺伝子がそこに住むための生存機械(Survival Machine)として定義される。遺伝子は、生き残るために、それぞれの進化的安定戦略(Evolutionarily Stable Strategy―ESS)を持っている。すべての生物の行動と進化は、遺伝子がこのESS を行使した結果として説明することができる。
(2)生物の親子関係、オスとメスの関係と子育て分担、ミツバチ社会の滅私奉公、動物の群れ行動と単独行動、集団における自己犠牲といった、生物に見られる利他的行動は、かつての自然淘汰進化論では説明できなかった。「自己中心で自己を繁殖させることのみを至上目的とする利己的遺伝子の持つ生き残り戦略」という概念を用いることにより、これらの生物の不可解な行動のほとんどを説明することが可能となる。
(3)遺伝子の性質をこのように規定すると、進化の過程(どの遺伝子がどのくらいの割合で子孫を残せるか)を、ゲームの理論を利用してシミュレーションすることがきる。
例1)タカ(的な性質)とハト(的な性質)は子孫をどれだけ残せるか?
タカどうしは戦闘しお互いに傷つけ合う。ハトどうしは何もしない。ハトとタカが出会うとハトは負けるが、傷つく前に逃げ出すことも可能。この条件にて、ハトとタカを共存させてどのような比率になるかを進化シミュレーションした。結果はハト42 %、タカ58 %という点で集団の進化的な安定点が得られた。
例2)いくつかの戦略モデルを競合させてどれがもっとも進化上有利かを調べてみた。
・常に攻撃する(好戦的)
・常に攻撃しない(平和的)
・攻撃されたらはじめて応分に報復する(気のいいNice guy)
・2回攻撃されたらはじめて報復する(寛容的 Nice guy)
・報復はするが短期の記憶しか持たない(あっさりNice guy)
・攻撃された記憶は最後まで保持され、忘れた頃に報復する(恨み屋)
・ときどき思い出したように攻撃する(気まぐれ屋)
・状況を知るために試しに攻撃してみる(試し屋)
・その他のバリエーション
15 の戦略パターンによって生き残りシミュレーションコンテストを実施したところ、第1位は気のいいNice guyであり、上位8つはすべてNice guyのグループに入るものであった。意地悪グループに分類されるもの(好戦、気まぐれ、試し屋)は高得点を得られず、また、最下位は最も手のこんだ戦略を用いるものであった。
(4)遺伝的進化は自己複製(レプリケート)を本質とする遺伝子によるものである。生物(特に人間)にはもうひとつ、文化的進化と呼べるものがある。文化的進化を起こすものは、伝達を伴う自己複製機能である。それをになう自己複製子をミーム(Meme)と名付ける。人間の脳はミームの住みつくコンピュータとも言える。我々が、死後に子孫に残せるものは遺伝子とミームである。ただし、人間の脳には、これらの利己的な自己複製子たちの専制支配に対抗できる力があるものと信じたい。
ーーーーーー要約終わりーーーーーー
この邦訳(1991年版)によると、欧米では思想界、教育界を巻きこむ大論争を呼んだ話題作であったそうである。色々示唆する内容に富んだ大書でもあるが、私が一番印象的に感じたのは、ドーキンスの仮説から導かれる結果、すなわち「究極の利己主義が利他的行動を生む。」と「単純で気のいい戦略が進化の上では最も有利である。」という2 つの結論であった。
前者は、人間の生き方にも通ずるように感ずる。賢い人は、他人を助けてその結果が何倍もの自分の利益(満足感や幸福感も利益と勘定して)となって戻ってきて幸福になっていく。自分が不幸になるような利他的行動をするということは、世の中にはあまり無いのではないだろうか(不幸の定義にもよるが)。古人も「情けは人の為ならず。」とちゃんとことわざに残している。
一方、単純で気のいい戦略というと、米国を思い浮かべてしまう。米国は、外部から侵略されひどい目に合わされたという経験が無いため、国家としては基本的には単純で人がいいようだ。単純で気のいい戦略が最も生き残る可能性が高いというシミュレーション結果は大変興味深い。ソ連は崩壊したが、米国は種々の問題を抱え込みながらも、これからも、ずっと世界最大の一等国であり続けるのではないだろうか。
ドーキンスの主張が、30数年経っても色あせないのは、生物学における学問的な価値のみならず、人間や国家の振る舞いまでをも、説得力ある科学者の言葉で表現し得ているからではないのだろうかと感ずる。(これはあくまで私見であるが。)
by sakuraimac
| 2012-11-23 11:57
| 科学技術
|
Comments(2)
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通りがかり
at 2013-05-13 17:27
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気のいいNice Gui は Nice guyでしょうか?
0
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sakuraimac at 2013-05-13 17:35
ご指摘ありがとうございます。ミススペルでした。直しておきます。