2013年 02月 06日
シャノンの功績 |
私の大学での所属は電気電子工学科であり、そこでエレクトロニクス関連の授業をいくつか受け持っている。この分野で講義をしていると、クロード・シャノン(Claude Elwood Shannon、1916年-2001年)という人物の功績の偉大さにつくづくと感じ入ってしまう。
クロード・シャノンは、20世紀において最も世の中に影響を与えた科学者の一人とされ、情報理論の父とも呼ばれている。アラン・チューリングやジョン・フォン・ノイマンらとともに今日のコンピュータ技術の基礎を作り上げた人物としてもしばしばその名があげられる。
電子情報工学への貢献の大きさは、現在の大学の情報通信分野の授業科目を見るとよく分かる。その多くがシャノンの仕事が基礎となっていることに改めて驚く。その概要をちょっとばかり挙げてみたい。(話が少々専門的になることはお許しのほどを)
(1)ディジタル電子回路:
1937年に、MITの学生であったシャノンは、修士論文にて「継電器とスイッチ回路の記号論的解析」という論文を書き、電子回路にてブール代数を扱うことができること、すなわち論理演算がスイッチ回路で実行できることを証明した。これによって、計算機械が、現在のような高速の論理演算機として活躍することが可能となった。この論文は「今世紀で最も重要で、かつ最も有名な修士論文」と評された。
(2)情報理論 :
ベル研究所に勤めたシャノンは、1948年に、論文「通信の数学的理論」を発表し、情報というものを数量的に扱えるように定義し、情報理論という新たな数学的理論を創始した。そこでは情報の量としてエントロピーの概念を導入し、情報量の単位としてビットを初めて使用した。
(3)通信方式:
同じく、同論文にて、ノイズがある通信路で正確に情報を伝送するための誤り訂正符号の概念を導入した。通信路あたりの伝送容量に上限は「シャンノンの定理」として有名である。多くの人々が、このシャノンの限界を目指して、様々な符号化方式を提案した。これらはディジタル通信・ディジタル記録技術の発展に大きく貢献するとともに、一大学問分野を形成した。
(4)ディジタル信号処理:
アナログ信号をディジタル化する際の基本となる「標本化定理」を1949年の論文にて証明した。これは、現在の画像や音楽のディジタル化の基礎となるもので、今日のディジタル社会の実現に極めて大きな貢献をした。(なお、標本化定理は、ほぼ同時期に日本の染谷勲博士も証明しており、シャノン一人の独創的な仕事ではなかったようではあるが。)
(5)暗号理論:
1949年に論文「秘匿系での通信理論」を発表し、情報理論的に解読不可能な暗号が構成できることを数学的に証明した。 シャノンはこの論文で、暗号のアルゴリズム(暗号化方法)が知られてもなお安全である暗号について考察しており、はじめて暗号について数学的分析を行った。暗号も現在では一大研究分野を形成しており、身近な生活でも、データの秘匿性を守るために種々の暗号が広く使われている。
こうしてみると、シャノンの多才さと功績は際立っており、情報理論の父のみではなく、電子情報通信学の父とも呼びたくなる。
シャノンの功績は特に新しい話題ではないのだが、ごく最近、上智大学の高岡詠子先生が、ブルーバックスでシャノンのことを紹介されていたので、ちょっと日頃感じていることを書いてみた次第である。
<追記>
シャノンとともにコンピュータの基礎を作った、チュ-リング、ノイマンは、戦争にも深くかかわった人々である。ノイマンは米国で原子爆弾のマンハッタン計画に参加し、チュ-リングは英国にてナチスの暗号エニグマを解読するチームの中心的な役割を果たした。
今日のディジタル技術、コンピュータ、通信技術、暗号技術のすべては、ほぼ第二次世界大戦前後には本質的な部分は完成されていた訳である。それらが、あまねく人々の日常生活に浸透したのは、1 Cm 角のチップに何億個という途方もない数のトランジスタを集積することに成功した、CMOS半導体技術の驚異的な進歩のおかげであった。
よく考えてみると、情報通信の分野でこの半世紀の間において全く新しい概念やシステムはそんなには生まれてはいない(インターネットは別であるが)。お釈迦様の手のヒラの上を飛び回っていた孫悟空のごとく、我々は、未だに、シャンノン、チューリング、ノイマンの手のヒラの上で飛び回っているだけなのではないのかなあということを、つくづく感ずるこの頃でもある。
クロード・シャノンは、20世紀において最も世の中に影響を与えた科学者の一人とされ、情報理論の父とも呼ばれている。アラン・チューリングやジョン・フォン・ノイマンらとともに今日のコンピュータ技術の基礎を作り上げた人物としてもしばしばその名があげられる。
電子情報工学への貢献の大きさは、現在の大学の情報通信分野の授業科目を見るとよく分かる。その多くがシャノンの仕事が基礎となっていることに改めて驚く。その概要をちょっとばかり挙げてみたい。(話が少々専門的になることはお許しのほどを)
(1)ディジタル電子回路:
1937年に、MITの学生であったシャノンは、修士論文にて「継電器とスイッチ回路の記号論的解析」という論文を書き、電子回路にてブール代数を扱うことができること、すなわち論理演算がスイッチ回路で実行できることを証明した。これによって、計算機械が、現在のような高速の論理演算機として活躍することが可能となった。この論文は「今世紀で最も重要で、かつ最も有名な修士論文」と評された。
(2)情報理論 :
ベル研究所に勤めたシャノンは、1948年に、論文「通信の数学的理論」を発表し、情報というものを数量的に扱えるように定義し、情報理論という新たな数学的理論を創始した。そこでは情報の量としてエントロピーの概念を導入し、情報量の単位としてビットを初めて使用した。
(3)通信方式:
同じく、同論文にて、ノイズがある通信路で正確に情報を伝送するための誤り訂正符号の概念を導入した。通信路あたりの伝送容量に上限は「シャンノンの定理」として有名である。多くの人々が、このシャノンの限界を目指して、様々な符号化方式を提案した。これらはディジタル通信・ディジタル記録技術の発展に大きく貢献するとともに、一大学問分野を形成した。
(4)ディジタル信号処理:
アナログ信号をディジタル化する際の基本となる「標本化定理」を1949年の論文にて証明した。これは、現在の画像や音楽のディジタル化の基礎となるもので、今日のディジタル社会の実現に極めて大きな貢献をした。(なお、標本化定理は、ほぼ同時期に日本の染谷勲博士も証明しており、シャノン一人の独創的な仕事ではなかったようではあるが。)
(5)暗号理論:
1949年に論文「秘匿系での通信理論」を発表し、情報理論的に解読不可能な暗号が構成できることを数学的に証明した。 シャノンはこの論文で、暗号のアルゴリズム(暗号化方法)が知られてもなお安全である暗号について考察しており、はじめて暗号について数学的分析を行った。暗号も現在では一大研究分野を形成しており、身近な生活でも、データの秘匿性を守るために種々の暗号が広く使われている。
こうしてみると、シャノンの多才さと功績は際立っており、情報理論の父のみではなく、電子情報通信学の父とも呼びたくなる。
シャノンの功績は特に新しい話題ではないのだが、ごく最近、上智大学の高岡詠子先生が、ブルーバックスでシャノンのことを紹介されていたので、ちょっと日頃感じていることを書いてみた次第である。
<追記>
シャノンとともにコンピュータの基礎を作った、チュ-リング、ノイマンは、戦争にも深くかかわった人々である。ノイマンは米国で原子爆弾のマンハッタン計画に参加し、チュ-リングは英国にてナチスの暗号エニグマを解読するチームの中心的な役割を果たした。
今日のディジタル技術、コンピュータ、通信技術、暗号技術のすべては、ほぼ第二次世界大戦前後には本質的な部分は完成されていた訳である。それらが、あまねく人々の日常生活に浸透したのは、1 Cm 角のチップに何億個という途方もない数のトランジスタを集積することに成功した、CMOS半導体技術の驚異的な進歩のおかげであった。
よく考えてみると、情報通信の分野でこの半世紀の間において全く新しい概念やシステムはそんなには生まれてはいない(インターネットは別であるが)。お釈迦様の手のヒラの上を飛び回っていた孫悟空のごとく、我々は、未だに、シャンノン、チューリング、ノイマンの手のヒラの上で飛び回っているだけなのではないのかなあということを、つくづく感ずるこの頃でもある。
by sakuraimac
| 2013-02-06 21:50
| 科学技術
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