2013年 06月 25日
課長の苦難 |
会社勤めをしていて課長だった頃の愛読書に、弘兼憲史氏の“課長島耕作”があった。
本棚に並んでいく漫画単行本は家内にあきれられていたのであるが、上下の板ばさみで元気をなくすか、カラ元気でツッぱるか、いずれにしても悪戦苦闘の大企業の課長像というものをさわやかに描き、日本のヤングビジネスマン達の課長というものへのイメージを、大きく変えてしまった名作であったのではないかと今でも思っている。(現在では昇進して社長にまでなってしまったが、漫画のほうはあいかわらずの根強い人気のようである。)
課長というのは,多くの企業組織では,たぶん実戦部隊長の最後の段階だと思う。(部長になると課長を束ねる役目になってしまう。)その意味では,課長の働きというのは組織の要となるし,下で働く個々の人々への直接のリ-ダーシップが最も要求される立場となると思われる。
実力があれば,組織を利用して思う存分に活躍できる地位であるし,実力が無いと,組織の重圧を受けてしまいつぶされてしまいそうになる危険性もある。職責としての数も多いし,従事している人の数も多く(80万人とも言われている),おそらくリーダーシップというものに最も敏感になっている階層の人々とも言えるのではないだろうか。
最近は,課長塾というセミナーの広告をよく見かける。(30万円という受講料なので中途半端なものではない。)企業トップのリーダーシップはとかく話題となるが,それとは別に実戦部隊を率いる課長クラスのリーダーシップの養成というものが,今日,改めて見直されてきているのではないかということを感ずる。
東京大学総合教育センターの中原淳准教授が,バブル崩壊以後,特に課長職のしんどさが増大したという調査報告をしている。(私も以前,このブログで「中間管理職の受難」という名で似たようなことを書いたことがあるが。)
中原准教授の指摘によると3つの理由があげられるという。
1つは「突然化」。90年代以降、主任、課長補佐、課長代理など細かな役職が廃止され、多くの場合、昨日まで一般社員だった人が、十分な学習機会もなく、一夜にして「課長」に就くようになった。指示をされる側が突然、指示をする側になる。そのギャップの大きさが、1つ目の「しんどさ」を招いている。
2つ目は「二重化」。12年に筆者と日本生産性本部が行ったミドルマネジャーに対する共同調査によると、「100%マネジャー業務だけをやっている」と答えた人は、531人中14人だけ。つまり、今やプレイヤーとして働きながら、マネジメントの仕事もこなすプレイングマネジャーが、一般的な「課長」の姿。となると当然、業務量が増大する。
3つ目は、マネジメントする対象の「多様化」。契約・派遣社員、あるいは外国人など、同じ職場で多様な立場の人が一緒に働くようになっている。また、「年上の部下を持つことが悩み」という声も多く聞かれる。立場の異なる様々な部下に対応しなければならないという難しさも、「しんどさ」につながっている。
このようなしわ寄せを,すべて課長職に押しつけていたのでは,組織の活性化は中々おぼつかないであろう。
昔,日本郵船の社長だった根本二郎氏が,課長について次のようなことを言っていたことを思い出している。「課長の条件として、仕事のプロ、戦略観、オルガナイザ/コーディネータ、父性より母性の4つが大切といつも言っている。」
当時は,話はわかるが,組織を維持運営することが最重要課題である課長にはちょっと無理な要求だと思っていた。
しかしながら,もし,課長クラスの多くが,根本氏の言うような条件を満たして動けたとしたら,おそらくその組織は大いに発展できるだろう。また,そのすべてを満たせる人がいたら,それこそ社長にでもなれるに違いない。
各企業も,組織の最も重要な要である課長職をもっと大切に扱い育て,根本氏の言っていたことを少しでも意識できるような環境を整えてやることが重要なのではないだろうか。
最近の課長塾セミナーの広告を見るにつけ,悪戦苦闘の課長時代を過ごしてきた私としては,「世の課長の皆さん,がんばってください!」と大いにエールを送りたい気持ちになってくるのを押さえない思いがする。
<追記>マネジメントやリーダーシップにおいて人々が最も苦労し悩むのは人間のマネジメントだと思う。世の中には,山のようなリーダーシップ論の本があるが,大半のノウハウ的なものはまずは役に立たないと思って間違いない。人間をマネジメントするノウハウというものは,太古のマンモス狩りをしていた時代から,そう変わってはいないのだ。(これは敬愛する天外伺朗さんの言葉をお借りしたものであるが)
マネジメントの基本は人間マネジメントだと思うのだが,会社は決してそれを教えてはくれない。古きをたずね,相談をし,対話を重ね,自分で考え抜くしか切り抜ける方法はないと思う。その苦難を経てこそ,大きな人間成長があるのだと信じて,世の課長の皆さん,がんばってください。
本棚に並んでいく漫画単行本は家内にあきれられていたのであるが、上下の板ばさみで元気をなくすか、カラ元気でツッぱるか、いずれにしても悪戦苦闘の大企業の課長像というものをさわやかに描き、日本のヤングビジネスマン達の課長というものへのイメージを、大きく変えてしまった名作であったのではないかと今でも思っている。(現在では昇進して社長にまでなってしまったが、漫画のほうはあいかわらずの根強い人気のようである。)
課長というのは,多くの企業組織では,たぶん実戦部隊長の最後の段階だと思う。(部長になると課長を束ねる役目になってしまう。)その意味では,課長の働きというのは組織の要となるし,下で働く個々の人々への直接のリ-ダーシップが最も要求される立場となると思われる。
実力があれば,組織を利用して思う存分に活躍できる地位であるし,実力が無いと,組織の重圧を受けてしまいつぶされてしまいそうになる危険性もある。職責としての数も多いし,従事している人の数も多く(80万人とも言われている),おそらくリーダーシップというものに最も敏感になっている階層の人々とも言えるのではないだろうか。
最近は,課長塾というセミナーの広告をよく見かける。(30万円という受講料なので中途半端なものではない。)企業トップのリーダーシップはとかく話題となるが,それとは別に実戦部隊を率いる課長クラスのリーダーシップの養成というものが,今日,改めて見直されてきているのではないかということを感ずる。
東京大学総合教育センターの中原淳准教授が,バブル崩壊以後,特に課長職のしんどさが増大したという調査報告をしている。(私も以前,このブログで「中間管理職の受難」という名で似たようなことを書いたことがあるが。)
中原准教授の指摘によると3つの理由があげられるという。
1つは「突然化」。90年代以降、主任、課長補佐、課長代理など細かな役職が廃止され、多くの場合、昨日まで一般社員だった人が、十分な学習機会もなく、一夜にして「課長」に就くようになった。指示をされる側が突然、指示をする側になる。そのギャップの大きさが、1つ目の「しんどさ」を招いている。
2つ目は「二重化」。12年に筆者と日本生産性本部が行ったミドルマネジャーに対する共同調査によると、「100%マネジャー業務だけをやっている」と答えた人は、531人中14人だけ。つまり、今やプレイヤーとして働きながら、マネジメントの仕事もこなすプレイングマネジャーが、一般的な「課長」の姿。となると当然、業務量が増大する。
3つ目は、マネジメントする対象の「多様化」。契約・派遣社員、あるいは外国人など、同じ職場で多様な立場の人が一緒に働くようになっている。また、「年上の部下を持つことが悩み」という声も多く聞かれる。立場の異なる様々な部下に対応しなければならないという難しさも、「しんどさ」につながっている。
このようなしわ寄せを,すべて課長職に押しつけていたのでは,組織の活性化は中々おぼつかないであろう。
昔,日本郵船の社長だった根本二郎氏が,課長について次のようなことを言っていたことを思い出している。「課長の条件として、仕事のプロ、戦略観、オルガナイザ/コーディネータ、父性より母性の4つが大切といつも言っている。」
当時は,話はわかるが,組織を維持運営することが最重要課題である課長にはちょっと無理な要求だと思っていた。
しかしながら,もし,課長クラスの多くが,根本氏の言うような条件を満たして動けたとしたら,おそらくその組織は大いに発展できるだろう。また,そのすべてを満たせる人がいたら,それこそ社長にでもなれるに違いない。
各企業も,組織の最も重要な要である課長職をもっと大切に扱い育て,根本氏の言っていたことを少しでも意識できるような環境を整えてやることが重要なのではないだろうか。
最近の課長塾セミナーの広告を見るにつけ,悪戦苦闘の課長時代を過ごしてきた私としては,「世の課長の皆さん,がんばってください!」と大いにエールを送りたい気持ちになってくるのを押さえない思いがする。
<追記>マネジメントやリーダーシップにおいて人々が最も苦労し悩むのは人間のマネジメントだと思う。世の中には,山のようなリーダーシップ論の本があるが,大半のノウハウ的なものはまずは役に立たないと思って間違いない。人間をマネジメントするノウハウというものは,太古のマンモス狩りをしていた時代から,そう変わってはいないのだ。(これは敬愛する天外伺朗さんの言葉をお借りしたものであるが)
マネジメントの基本は人間マネジメントだと思うのだが,会社は決してそれを教えてはくれない。古きをたずね,相談をし,対話を重ね,自分で考え抜くしか切り抜ける方法はないと思う。その苦難を経てこそ,大きな人間成長があるのだと信じて,世の課長の皆さん,がんばってください。
by sakuraimac
| 2013-06-25 17:01
| 仕事
|
Comments(2)
デール・カーネギー協会のデール・カーネギーコースのセッションの中に「寸劇の役者を演じる」という時間があった。ジャックと豆の木の鬼の役を迫力満点で演じたり、お姫様を救う正義の使者を演じたり、TVコマーシャルの洗剤の通販を大げさにやったり。 何の役に立つのだろうと思った。しかし、マネージャーは場面、場面の状況に合わせて役割を担い、言葉を発し、態度で示して関係者に好影響力を発揮し状況を継続発展していく必要に迫られている演技者の一面を持っている。グーグルの村上憲郎氏がDECの管理者時代に、サイバーエージェントの藤田晋氏が創業期の頃から愛読した「人を動かす」は、世界中で時代を超え読みつがれてきたバイブルだ。 多くのビジネスマンが、悩み・読み・実践し・経験を振りスキルを獲得し、また悩む・・・というサイクルの中で成長した人は多い。中原准教授他が提唱する学習理論モデルや職場学習論の本質もこの本の中に内在していると思う。内外の事業環境は時代、時代で大きく異なるが、中間管理職の本質的問題~人間関係論・コミュニケーション・統率力の本質~は変わっていないとも考える。
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sakuraimac at 2013-08-25 17:10
jayjayさん、おひさしぶりです。
カーネギの「人を動かす」は永遠の名著ですね。
天外伺朗さんの、初期の著作も燃える集団を作るという意味で名著だと思っています。あまり有名ではないですが。
天外さんは、ますます元気さかんで、「燃える集団、フロー経営」というモットーで天外塾という経営塾を開いてます。Face book で、さかんに発信されてます。
あっとjayjayさんはfacebook は入られていなかったのですね。
カーネギの「人を動かす」は永遠の名著ですね。
天外伺朗さんの、初期の著作も燃える集団を作るという意味で名著だと思っています。あまり有名ではないですが。
天外さんは、ますます元気さかんで、「燃える集団、フロー経営」というモットーで天外塾という経営塾を開いてます。Face book で、さかんに発信されてます。
あっとjayjayさんはfacebook は入られていなかったのですね。