2014年 10月 13日
青色LEDのノーベル賞受賞 |
長年ノーベル賞候補と言われていた青色LED発光ダイオードへの受賞が遂に決定した。3人の日本人(赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏)の受賞は大変喜ばしいことである。
特に、世の中に大きな影響を与えた(これかもさらに与え続けるであろう)電子工学の分野に与えられたことは嬉しい思いがする。
自分は、半導体の物性関係は専門では無いので、今回の3人の業績については、受賞を報道するマスコミ解説と、それを説明するネット記事で、今回改めてその研究の内容の詳細を知った。
赤崎氏の信念と、結晶成長を成功させた天野氏の研究は文句のつけようが無い業績だと思う。しかしながら、独創的な仕事によってそれを実用化に導いた最大の功労者だと思い込んできた中村氏については、色々な記事を読んでみて、ちょっと、アレッと思ったところがある。
特に、かつての、日亜化学工業との中村氏との間の裁判争いにおいて、数少ない日亜化学工業側の言い分の記事を、改めて読んでみて少し考え込んでしまった。
http://techon.nikkeibp.co.jp/NEWS/nakamura/mono200404_2.html
裁判がかかわっているので、どちらの言い分が、正しいのかは、部外者には良く分からないところもある。ただし、日亜化学工業の小川英治社長の言葉には、技術面では大きな嘘は無いようにも思われるので、その要点を以下にまとめてみる。
1.サファイアの基板の上に窒化ガリウムの単結晶の生成を初めて成功したのは、赤崎教授(実際の発見は天野教授)である。中村氏は、その後に別のツーフローMOCVDという方法を2年間で独自に開発したことは評価される。ところが、ツーフローMOCVD法は、量産には適さず、日亜化学工業は、量産には別の方法を使ってきた。
2.青色LEDを作るには、結晶成長の他に、P型半導体を作る技術が不可欠であり世界中の科学者が挑戦していた。そこで、唯一の解であるアニールP型化現象を発見したのは、中村氏ではなく、日亜化学工業の若い研究員だった。すでに発見されていた基板結晶化の再現よりは、世界初のアニールP型現象の発見のほうが価値は高い。
上記の2つは、小川社長の言い分なので、真偽のほどは、私には判断できない。ただし、もし本当だとするならば、中村氏の功績とは何だったのだろうか?と素朴な疑問が浮かんでしまうのも避けることはできない。
今回の3人の業績を伝えて解説するマスコミも、赤崎氏と天野氏の仕事については詳細に説明しているが、中村氏の業績については、明瞭な解説が出来ないでいるように見える。量産化への道を拓いたというが、その具体例の紹介が何も無いのである。私が、最初に「アレッ」と疑問に思ったきっかけでもある。
中村氏の実用化への功績には小さくないものがあるのだろうし、氏の受賞にケチを付けるつもりは全く無い。ただし、今まで、何となく一般に信じられてきた(私もそう思っていた)青色LEDの実用化は中村氏個人の独創的功績によるものだという認識は、色々な話を聞くと、ちょっと事実とは異なるのではないかとの感想を持たざるを得ないのである。
ノーベル賞については、色々な疑念や疑問が出されるのは通例なので、あまりほじくりかえすのはやめて、日本人として、素直に喜べばよいのかもしれない。
ただし、今回の受賞をきっかけに、色々調べてみると、今までの自分自身の持っていた中村氏への研究者としての評価(独創性に関する)の印象が、少し変わってしまったのも事実なので、ちょっとつぶやいてみた次第である。
<後日追記>
勉強不足の私の疑問を解消してくれるコメントを頂きましたので、下記のコメント欄をぜひご覧頂ければ幸いです。ノーベル賞受賞のポイントは、ツーフローでもなく、アニールでもなく、インジウム添加による大幅な輝度レベルの向上というところにあるようです。特許紛争での技術と、受賞の対象となった技術は異なるものであったということならば、ごく素直に納得ができます。そういう第三者の解説がきちんとあれば何も疑問は生じないのですが。(ただし、中村氏もノーベル賞までもらったのだから、過去のことはさておき、今となっては、もう少し日本人の受賞者としてふさわしい言葉をとも思います。青少年も注目しているのですし。)
特に、世の中に大きな影響を与えた(これかもさらに与え続けるであろう)電子工学の分野に与えられたことは嬉しい思いがする。
自分は、半導体の物性関係は専門では無いので、今回の3人の業績については、受賞を報道するマスコミ解説と、それを説明するネット記事で、今回改めてその研究の内容の詳細を知った。
赤崎氏の信念と、結晶成長を成功させた天野氏の研究は文句のつけようが無い業績だと思う。しかしながら、独創的な仕事によってそれを実用化に導いた最大の功労者だと思い込んできた中村氏については、色々な記事を読んでみて、ちょっと、アレッと思ったところがある。
特に、かつての、日亜化学工業との中村氏との間の裁判争いにおいて、数少ない日亜化学工業側の言い分の記事を、改めて読んでみて少し考え込んでしまった。
http://techon.nikkeibp.co.jp/NEWS/nakamura/mono200404_2.html
裁判がかかわっているので、どちらの言い分が、正しいのかは、部外者には良く分からないところもある。ただし、日亜化学工業の小川英治社長の言葉には、技術面では大きな嘘は無いようにも思われるので、その要点を以下にまとめてみる。
1.サファイアの基板の上に窒化ガリウムの単結晶の生成を初めて成功したのは、赤崎教授(実際の発見は天野教授)である。中村氏は、その後に別のツーフローMOCVDという方法を2年間で独自に開発したことは評価される。ところが、ツーフローMOCVD法は、量産には適さず、日亜化学工業は、量産には別の方法を使ってきた。
2.青色LEDを作るには、結晶成長の他に、P型半導体を作る技術が不可欠であり世界中の科学者が挑戦していた。そこで、唯一の解であるアニールP型化現象を発見したのは、中村氏ではなく、日亜化学工業の若い研究員だった。すでに発見されていた基板結晶化の再現よりは、世界初のアニールP型現象の発見のほうが価値は高い。
上記の2つは、小川社長の言い分なので、真偽のほどは、私には判断できない。ただし、もし本当だとするならば、中村氏の功績とは何だったのだろうか?と素朴な疑問が浮かんでしまうのも避けることはできない。
今回の3人の業績を伝えて解説するマスコミも、赤崎氏と天野氏の仕事については詳細に説明しているが、中村氏の業績については、明瞭な解説が出来ないでいるように見える。量産化への道を拓いたというが、その具体例の紹介が何も無いのである。私が、最初に「アレッ」と疑問に思ったきっかけでもある。
中村氏の実用化への功績には小さくないものがあるのだろうし、氏の受賞にケチを付けるつもりは全く無い。ただし、今まで、何となく一般に信じられてきた(私もそう思っていた)青色LEDの実用化は中村氏個人の独創的功績によるものだという認識は、色々な話を聞くと、ちょっと事実とは異なるのではないかとの感想を持たざるを得ないのである。
ノーベル賞については、色々な疑念や疑問が出されるのは通例なので、あまりほじくりかえすのはやめて、日本人として、素直に喜べばよいのかもしれない。
ただし、今回の受賞をきっかけに、色々調べてみると、今までの自分自身の持っていた中村氏への研究者としての評価(独創性に関する)の印象が、少し変わってしまったのも事実なので、ちょっとつぶやいてみた次第である。
<後日追記>
勉強不足の私の疑問を解消してくれるコメントを頂きましたので、下記のコメント欄をぜひご覧頂ければ幸いです。ノーベル賞受賞のポイントは、ツーフローでもなく、アニールでもなく、インジウム添加による大幅な輝度レベルの向上というところにあるようです。特許紛争での技術と、受賞の対象となった技術は異なるものであったということならば、ごく素直に納得ができます。そういう第三者の解説がきちんとあれば何も疑問は生じないのですが。(ただし、中村氏もノーベル賞までもらったのだから、過去のことはさておき、今となっては、もう少し日本人の受賞者としてふさわしい言葉をとも思います。青少年も注目しているのですし。)
by sakuraimac
| 2014-10-13 20:19
| 科学技術
|
Comments(4)
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sakuraimac at 2014-10-21 23:46
信頼のおける方から、下記のような説明を受けましたので、改めてご報告いたします。(量産化に功績があったとマスコミが説明するので、日亜との紛争が思い出されて、疑問が沸いたのですが、下記のようなことであれば、納得がいきます。)
『ノーベル賞のサイトにある受賞理由には、中村さんの成果が量産化だとはたぶん書かれていないと思います。当時、数十mcd程度と暗くて実用的ではなかった青色LEDで、1cdと実用的な水準を実現したのは中村さんの業績でしょう。窒化ガリウムにインジウムを加えた発光層が、明るくなった理由です。その時期の開発は中村さんがほぼ独力で成し遂げたそうです。ノーベル賞サイトにその歴史があると思います。窒化ガリウムの青色は、米RCAなどで70年代には既に光っていました。もちろん、ものすごく暗かったし、構造が今のものではなかったので赤崎先生の業績が陰るものではありません。1cdの青色を見て「実用できる」と世の研究者たちに気づかせた。そこから急速に開発が進んだ。それが独創的な成果と言われる所以だそうです。』
『ノーベル賞のサイトにある受賞理由には、中村さんの成果が量産化だとはたぶん書かれていないと思います。当時、数十mcd程度と暗くて実用的ではなかった青色LEDで、1cdと実用的な水準を実現したのは中村さんの業績でしょう。窒化ガリウムにインジウムを加えた発光層が、明るくなった理由です。その時期の開発は中村さんがほぼ独力で成し遂げたそうです。ノーベル賞サイトにその歴史があると思います。窒化ガリウムの青色は、米RCAなどで70年代には既に光っていました。もちろん、ものすごく暗かったし、構造が今のものではなかったので赤崎先生の業績が陰るものではありません。1cdの青色を見て「実用できる」と世の研究者たちに気づかせた。そこから急速に開発が進んだ。それが独創的な成果と言われる所以だそうです。』
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sakuraimac at 2014-10-22 17:38
青色LEDに関するノーベル賞のサイトは以下です。
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2014/advanced-physicsprize2014_2.pdf
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2014/advanced-physicsprize2014_2.pdf
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guest
at 2021-12-04 03:21
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アニール効果によるP型層形成は中村氏の発見ではなくすでに考えられていたもののようですが、実現できていなかったのを原因究明して成功する手法を発見したのが中村氏のようです。
量産に適した手法に切り替えたので中村氏の貢献は少ないと小川社長は主張しているようですね。
ただそれを理由に失敗の原因を細かく証明した上に成功までの手順を発見した中村氏の貢献度が低いとする主張はさすがにふざけている・馬鹿にしていると思いますね。
企業研究員としての貢献度がどの程度なのかとか和解金が妥当なのかとかは私にはわかりませんが、日亜化学が大きな発明を行った社員に対して抑圧的な態度で搾取や裁判攻撃をしたんだなと言う事はわかります。
禄でもないですね
量産に適した手法に切り替えたので中村氏の貢献は少ないと小川社長は主張しているようですね。
ただそれを理由に失敗の原因を細かく証明した上に成功までの手順を発見した中村氏の貢献度が低いとする主張はさすがにふざけている・馬鹿にしていると思いますね。
企業研究員としての貢献度がどの程度なのかとか和解金が妥当なのかとかは私にはわかりませんが、日亜化学が大きな発明を行った社員に対して抑圧的な態度で搾取や裁判攻撃をしたんだなと言う事はわかります。
禄でもないですね
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sakuraimac at 2021-12-09 08:34
guestさん、コメントどうもありがとうございます。企業研究員への報酬は中々難しい問題ですね。