2017年 05月 07日
双極性障害 |
自分の病気のことを書くのは少しためらいもあるのだが、Facebookの友人の多くは知っているし、時間もたったことなので、体験談をここにちょっと書いてみたい。
2年ほど前に「そう状態」という診断を医者より受けて、大学を半年ばかり休職した。
「そう状態」のチェックリストには、以下のような事項が記されている。
①頭の回転が早くなり、気分がハイになる。
②普段に比べてとてもおしゃべりになる。
③自分がとても優れた存在になったように感ずる。
④アイデアがどんどんわき、それを素晴らしいと思う。
⑤楽天的になり将来は明るい人生が待ち受けていると思う。
⑥睡眠時間が少なくても平気になる。
⑦怒りっぽくなり人間関係や社会的信頼を損ねることがある。
⑧無駄な浪費や女性関係など快楽的活動に熱中する。
私の場合は、これらの項目にすべてが当てはまった。
頭の回転、判断力、記憶力が上がり、仕事をテキパキとこなす。素晴らしいアイデアが湧いてくる。誰にでも気軽に話かけて会話がはずみ、コミュニケーション能力があがる。芸術・文学への理解が深まる。女性にモテる。睡眠時間は少なく疲れを知らない。自分が万能人間になったように感じた。
ところが、そうしてしばらく経つうちに、寝ないし食べないで活発に活動したせいで、大幅に体力を消耗し、最後はダウンしてしまった。
精神科に行ったら即決で「そう状態」の診断を受け、体力が衰えているので休職するようにとの指示を受けた。以来自宅にて、服薬と静養をして、半年後に寛解(病状が落ち着いた状態)の診断を受けて、職場復帰した次第である(実際には治るのには1年かかった)。
そう状態の思い出は楽しいことが多く、例えば、女性に関しては、学会で行った他大学の女子学生をナンパして一緒に写真を撮ってもらったり、キャバクラに通ってNo.1嬢とすっかり仲良くなったり、新幹線の隣席の若い女性と一時間半もしゃべっていたり、美人の人妻を食事に誘ったりと、過去の自分では考えられないことをやっていた。
あと、自分はそう病だと宣言して、Facebook に記事を書きまくっていた。長文の記事を日に何度も書くので、皆にあきれられていたに違いない(そう病の貴重な記録だと面白がってくれた人もいたが)。
その他、般若心経を暗唱する、万葉集や古事記の学術研究書を読む、指揮者のつもりになって音楽を細部まで聴く、映画を字幕なしで見る(なぜか英語が分かる)、などなど、普段はやらないことをやっていた。
そう状態というのは、何らかの原因で頭脳の働きが活発化するものであるようだ。なので全く持っていない性質が出てくることは無く、元々わずかでもあった性質が拡大されて出てくるようだ。競馬・競輪などの賭け事や、投資などの無駄遣いに興味が湧かなかったのは幸いであった。
ところで、医学的には「そう病」、という名前の病気はないようだ。もらった診断書の病名の欄には双極性障害Ⅱと書いてある。いわゆる躁うつ病のことであるが、自分の場合はうつ状態がない。主治医の説明では、体調不全があるので仮面うつ病だろうとのことである。何か釈然としないのだが、医者はそう状態の再発とうつ病の発現を気にしており、いまだに病院に通って投薬を受けている。
主治医からは、「そう状態の人は自分が病気だと思わないので病院に来ない。高齢でそう状態になると認知症になる確率が非常に高くなるので注意するように。」と忠告されている。そう状態はむしろ楽しく懐かしい思い出なのであるが、反作用は恐ろしいので、医者の言うことを聞き、処方された薬はきちんと飲むようにしている。
なお、色々と迷惑をかけた研究室の方々、授業代行でお手数をおかけした大学関係者、および身近で病人の面倒を見てくれた家内には、深く感謝をしなければならないと思っている。
(付記1)双極性障害にはⅠとⅡがある。Ⅰは社会生活に支障が出るようなそう状態の場合であり、Ⅱはそれほどでもない軽そう状態の場合を言う。私の場合は軽そう状態なので、双極性障害Ⅱと診断された。そういう意味では本当の重いそう状態は経験していない。また、私の場合は主観的なうつ状態が無いので、一般の双極性障害とは少し異なるものと思われる。
(付記2)双極性障害はめずらしい病ではないそうだ。そう状態のときの薬としては脳の活性化を鎮める、炭酸リチウム(リーマス)とバルプロ酸ナトリウム(デパケン)が処方される。これらの薬はテンカン用に開発されたものであるがそう状態にもよく効く。難しいのがうつ状態になったときで、抗うつ剤の使用は急なそう転を起こして危険なので、精神科医はうつ病なのか双極性障害なのかを見極めるのに注意が必要なのだそうだ。
(付記3)そう状態が起きる原因は双極性障害のほかにも色々あるらしい。自分の場合は、過去にそう状態は見当たらないし、心療内科でうつ病と診断された記憶もない。いきなり起きた単発性のそう状態ではないのかと感じている。思い当たるのが、胃の不調で1週間ほどひどく苦しんでいて、そのあと急に気分がハイな状態になった記憶がある。例えばランナーズハイを起こすと言われる脳内物質(エンドロフィン)のせいだと仮定すると何となく納得できる。証拠は何もないのだが。
(付記4)覚せい剤も脳を活発化させるという意味で、そう状態に似た脳の状態を引き起こすように見える。私はそう状態のときに視力がよくなった記憶がある。覚せい剤の元祖であるヒロポンが、戦争中に戦闘機パイロットの視力を上げるために多用されていたという話を聞いてなるほどと思った。
(付記5)薬のほかに自分で精神療法を試していた。効果があったのが、般若心経の朗読と、回想法であった。回想法は家内を相手に小学校・中学校時代を思い出して延々としゃべっていた。これはたぶん脳の興奮をおさめる働きがあったに違いないと思っている。回想法の成功は、現在の自分の認知症対応ロボットの研究のモチベーションともなっている。
(蛇足)自分がそう状態の尺度に使っていたのが銀星という囲碁のソフトであった。元々下手の横好きであったが、そう状態では囲碁がかなり強くなった気がした。読みが深くなった訳ではなく、全体を見渡して、捨て石をわざと作る。生きるぞ生きるぞと脅かしながら反対側に大きな地を作る。コウが大好きで、死んだフリをしていた捨て石を最大限に活用する。我ながら初心者とは思えない高等戦術を駆使して大勝していた。ただし、読みが浅いので負けるときは大敗を喫する。そう状態が収まるにつれて、着手が平凡になり、大勝も大敗もなくなった。これも大変面白い体験だった。
by sakuraimac
| 2017-05-07 16:54
| 生活
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