2011年 10月 01日
Knife and Handle |
企業に勤めていて課長になったばかりの頃、部下の技術者たちを見ていて、その特性モデルとして、包丁のことをよく思い浮かべていた。すごくよく切れる刃を持っているのに惜しむらくはちゃんとした柄がついていない。一方では、刃は切れないのに、やけに立派で使いやすい柄がついているのもある。マネージャの心情としては、掴むと手が切れそうな包丁はつい敬遠しがちになり、使いやすい柄の心地よさのほうにどうしても心が引かれてしまう。
この感想を、当時一緒に共同開発をしていた米国チームのマネージャに話をしたら、ひどく感激した面持ちで、「あなたは実にいいことを言う。その通りだ。私が Knife and Handle Theory と命名してあげよう。」と大喜びをするので、こちらのほうがかえって面喰ってしまった。彼のおおげさな反応に、この私の包丁の感想は、世界共通のものなのかもしれないと思った。
さらに、年を重ねてよく観察した結果、これは技術者の世界だけではなく、階層組織と名がつく場においては普遍的に見られる現象ではないかと気がついた。よい仕事は切れる刃が行う。しかしながら、上からの評価は使いやすい柄のほうに傾く。平社員から社長人事にいたるまで、この傾向はあらゆるところで見られるようだ。
切れない刃なのに柄だけが立派な包丁が重用されるような組織は、当然ながらよい仕事ができないので衰退する。これは、人を評価するトップの力量にゆだねられる。トップが組織の盛衰を決めるといわれるゆえんのひとつでもあろう。
ところで、個人のレベルに立ち戻って考えてみると、よく切れる刃を持った包丁はそれに見合った柄も持つように自らも努力しなければならないと思われる。すぐれた料理人に使ってもらうためには、刃と柄のバランスがうまく取れている必要がある。柄のことをうっかり忘れていると、気がついたときには誰にも使ってもらえずに、せっかくの刃のほうもサビついてしまうことになりかねない。
長い人生を生き抜いていくためには、切れる刃を研ぐことだけではなく、それにふさわしい柄を持つことにも努力を怠ってはならないのではないか、と私は思う。
この感想を、当時一緒に共同開発をしていた米国チームのマネージャに話をしたら、ひどく感激した面持ちで、「あなたは実にいいことを言う。その通りだ。私が Knife and Handle Theory と命名してあげよう。」と大喜びをするので、こちらのほうがかえって面喰ってしまった。彼のおおげさな反応に、この私の包丁の感想は、世界共通のものなのかもしれないと思った。
さらに、年を重ねてよく観察した結果、これは技術者の世界だけではなく、階層組織と名がつく場においては普遍的に見られる現象ではないかと気がついた。よい仕事は切れる刃が行う。しかしながら、上からの評価は使いやすい柄のほうに傾く。平社員から社長人事にいたるまで、この傾向はあらゆるところで見られるようだ。
切れない刃なのに柄だけが立派な包丁が重用されるような組織は、当然ながらよい仕事ができないので衰退する。これは、人を評価するトップの力量にゆだねられる。トップが組織の盛衰を決めるといわれるゆえんのひとつでもあろう。
ところで、個人のレベルに立ち戻って考えてみると、よく切れる刃を持った包丁はそれに見合った柄も持つように自らも努力しなければならないと思われる。すぐれた料理人に使ってもらうためには、刃と柄のバランスがうまく取れている必要がある。柄のことをうっかり忘れていると、気がついたときには誰にも使ってもらえずに、せっかくの刃のほうもサビついてしまうことになりかねない。
長い人生を生き抜いていくためには、切れる刃を研ぐことだけではなく、それにふさわしい柄を持つことにも努力を怠ってはならないのではないか、と私は思う。
by sakuraimac
| 2011-10-01 01:04
| 仕事
|
Comments(5)
Commented
by
ポン骨
at 2011-10-04 10:45
x
今後の人生で非常に役に立つ文章だと感じました.私は,ポンコツ界の代表選手であるため,切れない刃でありますが,単純に刃を研ぐことに集中するのではなく,柄も同時に飾りつけていきたい思います.
0
Commented
by
sakuraimac
at 2011-10-04 18:53
x
ポン骨さんへ、
包丁にも一流の料理人が使う超高級品から、家庭の主婦が使う普及品まで色々あります。(使われる数から言えば普及品のほうがはるかに多い。) 鋼の品質は親から授かったもので変えようがありませんが、それぞれの品質において、刃と柄のバランスをうまく取るということは、人にうまく使ってもらい役に立つという意味で非常に大切だと思います。
包丁にも一流の料理人が使う超高級品から、家庭の主婦が使う普及品まで色々あります。(使われる数から言えば普及品のほうがはるかに多い。) 鋼の品質は親から授かったもので変えようがありませんが、それぞれの品質において、刃と柄のバランスをうまく取るということは、人にうまく使ってもらい役に立つという意味で非常に大切だと思います。
Commented
at 2012-03-15 22:37
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
sakuraimac at 2012-03-15 23:06
jayjayさん、いつも貴重なコメントありがとうございます。
タオルを巻きつけても使えとは言いえて妙ですね。私はプロジェクトの成功のために、自分の手が血だらけになっても使い続けました。ただそこまで自分が我慢するのが正しい態度であったのかどうかは、今になっても答えが見出せません。私にとっては、この問題は永遠の課題です。おそらく、世の中の皆さんにとっても・・・。
タオルを巻きつけても使えとは言いえて妙ですね。私はプロジェクトの成功のために、自分の手が血だらけになっても使い続けました。ただそこまで自分が我慢するのが正しい態度であったのかどうかは、今になっても答えが見出せません。私にとっては、この問題は永遠の課題です。おそらく、世の中の皆さんにとっても・・・。
Commented
by
sakuraimac at 2012-03-24 16:14
Commented by jayjay at 2012-03-15 22:37 の再掲載です。
米国駐在時代の話しである、博士号を持つ大変頭の良い部下がいた。が、どうにも使えない。辞めてもらうこと部下達の総意でした。社長に相談に行った所、一喝された。「どんな社員も良い点がある。良い点を引き出し、使い倒し、成果を出すのが管理者だ!」さすがの私も部下を使い続けました。その上司の視点は、どのようなナイフでも使える所を探し活用しながら鍛えて立派なナイフにしろ、それが(有能な)管理者だという教えでした。 使っているうちに、自信を深め錆びているように見える刃も光のあてかげんでピカッと光らせることができる。柄がなければ、そのあたりにあるタオルでも巻きつけてでも使え。そんなknifeが光るからこそ、他の者も「うかうかできない」と仕事の成果を競いはじめることに気付いたのは、赤字事業部の個性豊かな部下を率いた時でした。御縁があってともに働くことになったからには、言葉は悪いが”使い倒して光らせてやることこそ私達のつとめではないか”と、自省の毎日が続いています。
米国駐在時代の話しである、博士号を持つ大変頭の良い部下がいた。が、どうにも使えない。辞めてもらうこと部下達の総意でした。社長に相談に行った所、一喝された。「どんな社員も良い点がある。良い点を引き出し、使い倒し、成果を出すのが管理者だ!」さすがの私も部下を使い続けました。その上司の視点は、どのようなナイフでも使える所を探し活用しながら鍛えて立派なナイフにしろ、それが(有能な)管理者だという教えでした。 使っているうちに、自信を深め錆びているように見える刃も光のあてかげんでピカッと光らせることができる。柄がなければ、そのあたりにあるタオルでも巻きつけてでも使え。そんなknifeが光るからこそ、他の者も「うかうかできない」と仕事の成果を競いはじめることに気付いたのは、赤字事業部の個性豊かな部下を率いた時でした。御縁があってともに働くことになったからには、言葉は悪いが”使い倒して光らせてやることこそ私達のつとめではないか”と、自省の毎日が続いています。