2011年 11月 15日
松永真理さん講演会報告 |
11/11(金)に、名古屋工業大学で、電子情報通信学会東海支部主催にて、松永真理さんの講演会 「感性を形に; i モードの開発事例から」 が開催された。
聴講者は、電子電気工学科と情報工学科の学生約200名ほどであったが、2時間にわたって、松永さんのとてもチャーミングでユーモアのある、しかしながら熱のこもった貴重なお話を聞かせていただいた。 また大変に活発な質疑応答が行われた。その要約をここでご紹介したい。
[1]松永さんの講演の要約
① 感性を形にする:
これはコンセプトメイクをすることである。i モードの開発の際には、世の中に無いものを作りどうやって人に届けるか、それをブレーンストーミングによって議論した。できるだけ異なる分野の人を集めることによってクリエィティビティが増加する。そこで、2つのキーワードが出来上がった。ひとつは「マイコンシェルジェ」、これはサービスの心を表す。もうひとつは「ケータイがもっと自分になっていく」、これはあらゆるものを携帯の中に入れること。1997年に企画をした。ブレーンストーミングは非常に有効であり、そこで、脳があたかもとろけていくような感覚を味わった。
コンセプトを明確にしないと、ぶれが生じて、余分なものがどんどん付け加わっていく。1999年の発売のときのキャッチコピーは「話す携帯から使う携帯」「使えるねiモード」というものであった。
② 見立て:
スティーブ・ジョブスが得意とすることである。パソコンを電話機の大きさで、女性にも使ってもらえることを目指して、彼が見立てたのは米国のおしゃれなキッチン家電であった。
私も編集者として見立てということはずっとやってきた。
i モード開発のときは、小さな携帯電話をインターネットにつなぎたいなどという人は誰もいないだろうと皆が言っていた。開発チームとしては、PCはスーパーマーケット、携帯電話はコンビニと見立てた。1970年代に開店し当初は誰も成功するとは思っていなかったコンビニは、今ではスーパーを凌駕している。携帯電話も同じで、Any time, Any where, Any one, というコンセプトできっと成功するものと考えていた。
あと、回転寿司を参考にして、iモードのコンテンツを100円に切り分けた。100円ショップが繁盛しているように、使う人が普段どういう行動様式を取っているかを見ることが大切である。
違う間逆のものを結び付けるというのが、技術開発の本質であり、違う概念を結び付けることによって新しい価値を生むのが商品開発の本質である。
リクルート時代に、「おやッ、まあ、へえー」 という言葉を記事を作るときの心得として教わった。これは、気付き、驚き、納得をあらわし、人の心を捉えるための基本である。
日頃から、こうなったらいいなという思いを持ち続けることが大切。斎藤由多加という有名なクリエータがいるが、彼は成功の秘訣は強い願望を持ち続けることだと言っている。
③つなげること:
すでにある知識・経験をつなげて新しいものを作ることが大切。
ジョブスは、点と点とをつなげる(Connecting dots)という言い方をしている。ただ、将来どのようにつながるかはその時点では分からない。そのときに興味を持ったことに集中することが大切だと思う。
一方では、人と人とのつながり、人と人との連鎖、波動が起きそこで人知を超えたものが生み出される。そこでしびれるような感覚を味わった。 「iモード事件」 を書いたとき、香港のフオーチュン誌の記者が、夏野剛さんをくどくシーンが一番面白しろかったと私に言った。
夏野さんは私が就職ジャーナル誌を一人でやらねばならなくなって困ったときにやとったアルバイト大学生であった。その後米国に渡りインターネットの洗礼を受け、日本でベンチャー企業を立ち上げていた。インターネットの専門家を捜していた私は、昔のつてを頼りに彼をこの仕事に引きこんだ。
彼の中ではすぐに、i モードのイメージが広がり興奮してくる。その熱が伝わってきて私も興奮してくる。自分が気付かずにもっていたおもちゃの価値を友人が見出してくれたような感じであった。大きな知的高揚感を感じた。
プロジェクトが成功するためには、リーダの覚悟が必要。ぶれたらうまくいかない。次にエンジンとなる中堅。これは夏野さんがやってくれた。あとは、若者たちのやる気である。
ひとつのアイデアはたいしたことはなくとも、点と点とをつなげることで、すごいアイデアが出てくることがある。ひとりの能力はたいしたことはなくとも、人と人をつなげることで、人知を超えるようなものができる。このことが、これ以上ないという生きている喜びを与えてくれた。
④就職について:
超就職氷河期にあった21歳の私も、当時は、自分が何をやりたいのかまったく分かっていなかった。さんざん入社試験を落ちたあと、ひとつのセミナーで出会いがあった。たまたま、大学の先輩がリクルートの編集長であり、彼の話を聞いて、そこで世の中で仕事を楽しんでいる人がいるのだということを初めて知った。そこで彼に手紙を書いた。電話を入れたら手紙を読んでいてくれて、では今から面接に来ないかと言われた。それが、リクルートに入社したきっかけであった。
それまでの自分の20年間を振り返っても、自分は特に勉強ができたわけでも得意なものがあったわけでもなく、何も誇れるもはなかった。しかし、この出会いのおけげで自分にスイッチが入ったような気がする。
NTTドコモに移ったのも、全くの偶然であった。細川護煕さんの本を読んで熊本に行きたくなった。そのことを友人に話をしたら、細川さんのブレーンで印刷会社の社長さんを紹介された。その人が、NTTドコモで、iモードのプロジェクトリーダをしていた榎さんの友人であり、それが縁でNTTドコモに招かれることになった。自分の興味に素直に従い、それを情報発信すること、そこから道が拓けてゆく体験をした。
主体性を発揮することが一番重要。自分のやりたいことなど、分からないことのほうが多い。大いに悩みに悩んで捜してみてほしい。
ジョブスの言葉に 「今日が人生最後の日だとしたら、私は今日する予定のことをしたいと思うだろうか。」 というものがある。何かを読んだとき、自分との対話をしてほしい。自分に何かささるものを感じとってほしい。
フロイトが、人生には、職業を選ぶということと、配偶者を選ぶという2つの通過儀礼があると言っている。そこには、主体性を持った選択、すなわちコミットメントをするということである。主体性を持って取り組んでほしい。
[2]松永さんとの質疑応答の要約
① i モードの急速な立ち上がりのしくみについて教えてください:
当時、携帯電話からインターネットにアクセスする方法としては、WAPという世界標準があった。ところが、夏野さんは、インターネットの標準言語であるHTMLの採用を強く主張し、ドコモはそれを採用した。その結果、コンテンツプロバイダやインターネットプロバイダが、簡単に乗ることができた。それが、サービスの数を増やしてユーザにも喜ばれ急速に普及した。もし、WAPを採用していたら、誰も乗ってこなかったであろう。HTMLの採用は、普及拡大の最大の鍵であった。(ただ、当時は、ドコモはまた独自仕様を持ち出してきたと、他の通信業者からは、さんざん非難された。我々にとっては、インターネットを見ていたから当然の話でしかなかったのだが。)
② スマートフォンの急速な普及についてどう感じますか:
アエラの取材には 「してやられた」 という表現を使ったが、正直のところくやしい思いがする。ボタンをなくすことまでは行きつけなかった。ただし、iPhone もi モードをずいぶんと研究して作られている。例えば、携帯にカメラを入れるなど日本人でなければ思いつかなかったはずだ。日本のたしかな技術には皆さん自信を持ってほしい。ジョブスがそれを証明してくれたと思う。にもかかわらず、日本の皆さんは、世界最先端の技術をガラパゴス携帯などと言って揶揄する。こういうネガティブな見方はよくない。反省してほしいと思う。
③ iモードの月額を300円と主張されたというお話を聞かせてください:
作家の村上龍さんが、「iモード事件」 の中で、300円という値段を踏ん張って決めたというところが一番面白いと言ってくれた。ドコモは、パケット通信に500億円投資していた。それを3年で取り戻すには、月額1000円にしないと元が取れないと経営企画部は主張する。私は、リクルート時代の経験から、人は情報には300円以上は決して払わないと思った。週刊誌は300円、月刊誌は500円、気軽に払える金額は300円である。4捨5入の理論というのを打ち上げて戦った。(夏野さんは、もう、500円で妥協してもいいじゃないですかと言いだしたが)
④ i モードの頭文字のi の由来を教えてください:
1997年のインターネットエキスポに行ったとき、IBM がe-business と小文字を使っていた。巨人のIBM が小文字を使うというところでピンときた。1998年に商標登録をした。すると、何と同じ年にiMac が出た。ユングがシンクロニシティということを言っている。因果関係のないことが同時に起こる。一人の人の考えは一人のものではなく、それゆえに大勢の人に共鳴して広がっていく。i のロゴはヒューマンだと思った。京大の山中伸也先生のiPS細胞もチャーミングな名前付けだと思う。その由来をうかがってみたい。
⑤スマートフオンの普及によるゲーム業界への影響について教えてください:
DeNA(モバゲーの会社) が球団を買収するくらいの高い利益を上げている、一方では、ニンテンドーは収益が大幅にダウンした。何十億かけて開発したパッケージが売れない。かつて、CDがLPを駆逐してしまったような勢いである。バンダイでも、ガンダムロワイヤル(モバゲー上でのゲーム)が、すぐ300万ユーザになった。
⑥NTTドコモにおけるプロジェクトの成功の秘訣は何でしたか:
周りは皆理系の人間ばかりだったので、私の役割は触媒なようなものと思った。プロジェクトリーダの榎さんは大組織を動かすのに私をうまく活用した。異化作用、異なるバックグランドの人が来たことによって、化学変化が起こった。私がアイデアをどんどん出すと肉付けしてくれる人が出てくる。違うジャンルの人と付き合うことが大切だと思う。
⑦理系の人間に対する感想とアドバイスをください:
政府の科学技術会議に出たときは、非常に緊張した。ノーベル賞受賞者が出席する会議にて、24兆円の予算を5年間でどう配分するかを決める。理系の優秀な方は話に無駄がない。理系人間は大好き。これからの時代は、科学技術が分からないとつらいと思う。皆さん自信を持って行ってください。ただ、ジョブスは技術だけでは十分でないと言っている。科学技術者にはリベラルアーツや人間性と組み合わせることによって、心が歌をかなでるような結果が生み出せる。
⑧コミュニケーション能力について感ずるところを教えてください:
やるべき仕事が分かりにくくなっている。仕事の能力は1つではない。誠実さは重要、きちんと遂行することは重要。しかし、上に行くほど、コミュニケーション能力は必要となる。色々ある能力のひとつであるが、ユーザの要求をくみ上げる共感力、それを相手の心に伝えることが重要となってくる。訓練である。問題意識を持っているかどうか重要。
⑨今現在こうしたらよいというアドバイスはありますか:
私はもの書くようにしている。読書も大切。日記は自分とのコミュニケーション、読書は著者とのコミュニケーション。日頃の関心事・気付いたことを記録している。あと、よく観察してほしい。話の中から、何かひとつでも掴むようにしてほしい。メンター(よき指導者)を持ってほしい。よきメンターは人生をとても豊かにしてくれる。
⑩ブレーンストーミングから2つのコンセプトが出た過程を教えてください:
6ヶ月間、ずっと延々と議論した。多彩な人が集まり、最初は群盲評像であったが、やっている中で見えてきた。楽しくありたいよね、とかテレビの話になったり、情報を仕分けできたらいいよねとか、様々やっているうちに、きたきた~という瞬間がやってきた。
⑪携帯にすべてが集約されるという理想はどのくらい実現されているでしょうか:
まだまだ、不都合はたくさんある。もっとよくなる社会が来ると思う。ラクに楽しくできる、もっとこうなったら嬉しくなるということは何時も考えている。i モ-ドを開発したとき、ろうあ者から携帯電話の中に自分たちの耳と口が入ったと言われたときは、すごく嬉しかった。スーパーエリートのためではなく、弱者や老人たちにも快適なものになっていってほしいと思っている。
⑫バンダイの異化作用の功罪について教えてください:
外からの視点が必要であり、違う発想を入れていくべきである。多様性が必要。純血主義では、この大きな変化の中ではやっていけないと思う。
⑬安心感というものついて教えてください:
情報でコントロールされるというのは、危険であり、セキュリティが必要。指紋と虹彩と音声を掛け合わせれば、より安全になるのではないだろうか。目と目の間とか骨格とかを組み合わせてみたらとも話をしている。携帯に個人情報を入れておき、ホームドクターとつながるようなしくみに対して、もっとクリエィティブな発想が必要。危険だと言うと発想が止まってしまうと思う。
本日は、皆さんが傾聴力を持ってしっかり聞いてくださったおかげで、私もとても集中して話すことができました。どうもありがとうございました。

聴講者は、電子電気工学科と情報工学科の学生約200名ほどであったが、2時間にわたって、松永さんのとてもチャーミングでユーモアのある、しかしながら熱のこもった貴重なお話を聞かせていただいた。 また大変に活発な質疑応答が行われた。その要約をここでご紹介したい。
[1]松永さんの講演の要約
① 感性を形にする:
これはコンセプトメイクをすることである。i モードの開発の際には、世の中に無いものを作りどうやって人に届けるか、それをブレーンストーミングによって議論した。できるだけ異なる分野の人を集めることによってクリエィティビティが増加する。そこで、2つのキーワードが出来上がった。ひとつは「マイコンシェルジェ」、これはサービスの心を表す。もうひとつは「ケータイがもっと自分になっていく」、これはあらゆるものを携帯の中に入れること。1997年に企画をした。ブレーンストーミングは非常に有効であり、そこで、脳があたかもとろけていくような感覚を味わった。
コンセプトを明確にしないと、ぶれが生じて、余分なものがどんどん付け加わっていく。1999年の発売のときのキャッチコピーは「話す携帯から使う携帯」「使えるねiモード」というものであった。
② 見立て:
スティーブ・ジョブスが得意とすることである。パソコンを電話機の大きさで、女性にも使ってもらえることを目指して、彼が見立てたのは米国のおしゃれなキッチン家電であった。
私も編集者として見立てということはずっとやってきた。
i モード開発のときは、小さな携帯電話をインターネットにつなぎたいなどという人は誰もいないだろうと皆が言っていた。開発チームとしては、PCはスーパーマーケット、携帯電話はコンビニと見立てた。1970年代に開店し当初は誰も成功するとは思っていなかったコンビニは、今ではスーパーを凌駕している。携帯電話も同じで、Any time, Any where, Any one, というコンセプトできっと成功するものと考えていた。
あと、回転寿司を参考にして、iモードのコンテンツを100円に切り分けた。100円ショップが繁盛しているように、使う人が普段どういう行動様式を取っているかを見ることが大切である。
違う間逆のものを結び付けるというのが、技術開発の本質であり、違う概念を結び付けることによって新しい価値を生むのが商品開発の本質である。
リクルート時代に、「おやッ、まあ、へえー」 という言葉を記事を作るときの心得として教わった。これは、気付き、驚き、納得をあらわし、人の心を捉えるための基本である。
日頃から、こうなったらいいなという思いを持ち続けることが大切。斎藤由多加という有名なクリエータがいるが、彼は成功の秘訣は強い願望を持ち続けることだと言っている。
③つなげること:
すでにある知識・経験をつなげて新しいものを作ることが大切。
ジョブスは、点と点とをつなげる(Connecting dots)という言い方をしている。ただ、将来どのようにつながるかはその時点では分からない。そのときに興味を持ったことに集中することが大切だと思う。
一方では、人と人とのつながり、人と人との連鎖、波動が起きそこで人知を超えたものが生み出される。そこでしびれるような感覚を味わった。 「iモード事件」 を書いたとき、香港のフオーチュン誌の記者が、夏野剛さんをくどくシーンが一番面白しろかったと私に言った。
夏野さんは私が就職ジャーナル誌を一人でやらねばならなくなって困ったときにやとったアルバイト大学生であった。その後米国に渡りインターネットの洗礼を受け、日本でベンチャー企業を立ち上げていた。インターネットの専門家を捜していた私は、昔のつてを頼りに彼をこの仕事に引きこんだ。
彼の中ではすぐに、i モードのイメージが広がり興奮してくる。その熱が伝わってきて私も興奮してくる。自分が気付かずにもっていたおもちゃの価値を友人が見出してくれたような感じであった。大きな知的高揚感を感じた。
プロジェクトが成功するためには、リーダの覚悟が必要。ぶれたらうまくいかない。次にエンジンとなる中堅。これは夏野さんがやってくれた。あとは、若者たちのやる気である。
ひとつのアイデアはたいしたことはなくとも、点と点とをつなげることで、すごいアイデアが出てくることがある。ひとりの能力はたいしたことはなくとも、人と人をつなげることで、人知を超えるようなものができる。このことが、これ以上ないという生きている喜びを与えてくれた。
④就職について:
超就職氷河期にあった21歳の私も、当時は、自分が何をやりたいのかまったく分かっていなかった。さんざん入社試験を落ちたあと、ひとつのセミナーで出会いがあった。たまたま、大学の先輩がリクルートの編集長であり、彼の話を聞いて、そこで世の中で仕事を楽しんでいる人がいるのだということを初めて知った。そこで彼に手紙を書いた。電話を入れたら手紙を読んでいてくれて、では今から面接に来ないかと言われた。それが、リクルートに入社したきっかけであった。
それまでの自分の20年間を振り返っても、自分は特に勉強ができたわけでも得意なものがあったわけでもなく、何も誇れるもはなかった。しかし、この出会いのおけげで自分にスイッチが入ったような気がする。
NTTドコモに移ったのも、全くの偶然であった。細川護煕さんの本を読んで熊本に行きたくなった。そのことを友人に話をしたら、細川さんのブレーンで印刷会社の社長さんを紹介された。その人が、NTTドコモで、iモードのプロジェクトリーダをしていた榎さんの友人であり、それが縁でNTTドコモに招かれることになった。自分の興味に素直に従い、それを情報発信すること、そこから道が拓けてゆく体験をした。
主体性を発揮することが一番重要。自分のやりたいことなど、分からないことのほうが多い。大いに悩みに悩んで捜してみてほしい。
ジョブスの言葉に 「今日が人生最後の日だとしたら、私は今日する予定のことをしたいと思うだろうか。」 というものがある。何かを読んだとき、自分との対話をしてほしい。自分に何かささるものを感じとってほしい。
フロイトが、人生には、職業を選ぶということと、配偶者を選ぶという2つの通過儀礼があると言っている。そこには、主体性を持った選択、すなわちコミットメントをするということである。主体性を持って取り組んでほしい。
[2]松永さんとの質疑応答の要約
① i モードの急速な立ち上がりのしくみについて教えてください:
当時、携帯電話からインターネットにアクセスする方法としては、WAPという世界標準があった。ところが、夏野さんは、インターネットの標準言語であるHTMLの採用を強く主張し、ドコモはそれを採用した。その結果、コンテンツプロバイダやインターネットプロバイダが、簡単に乗ることができた。それが、サービスの数を増やしてユーザにも喜ばれ急速に普及した。もし、WAPを採用していたら、誰も乗ってこなかったであろう。HTMLの採用は、普及拡大の最大の鍵であった。(ただ、当時は、ドコモはまた独自仕様を持ち出してきたと、他の通信業者からは、さんざん非難された。我々にとっては、インターネットを見ていたから当然の話でしかなかったのだが。)
② スマートフォンの急速な普及についてどう感じますか:
アエラの取材には 「してやられた」 という表現を使ったが、正直のところくやしい思いがする。ボタンをなくすことまでは行きつけなかった。ただし、iPhone もi モードをずいぶんと研究して作られている。例えば、携帯にカメラを入れるなど日本人でなければ思いつかなかったはずだ。日本のたしかな技術には皆さん自信を持ってほしい。ジョブスがそれを証明してくれたと思う。にもかかわらず、日本の皆さんは、世界最先端の技術をガラパゴス携帯などと言って揶揄する。こういうネガティブな見方はよくない。反省してほしいと思う。
③ iモードの月額を300円と主張されたというお話を聞かせてください:
作家の村上龍さんが、「iモード事件」 の中で、300円という値段を踏ん張って決めたというところが一番面白いと言ってくれた。ドコモは、パケット通信に500億円投資していた。それを3年で取り戻すには、月額1000円にしないと元が取れないと経営企画部は主張する。私は、リクルート時代の経験から、人は情報には300円以上は決して払わないと思った。週刊誌は300円、月刊誌は500円、気軽に払える金額は300円である。4捨5入の理論というのを打ち上げて戦った。(夏野さんは、もう、500円で妥協してもいいじゃないですかと言いだしたが)
④ i モードの頭文字のi の由来を教えてください:
1997年のインターネットエキスポに行ったとき、IBM がe-business と小文字を使っていた。巨人のIBM が小文字を使うというところでピンときた。1998年に商標登録をした。すると、何と同じ年にiMac が出た。ユングがシンクロニシティということを言っている。因果関係のないことが同時に起こる。一人の人の考えは一人のものではなく、それゆえに大勢の人に共鳴して広がっていく。i のロゴはヒューマンだと思った。京大の山中伸也先生のiPS細胞もチャーミングな名前付けだと思う。その由来をうかがってみたい。
⑤スマートフオンの普及によるゲーム業界への影響について教えてください:
DeNA(モバゲーの会社) が球団を買収するくらいの高い利益を上げている、一方では、ニンテンドーは収益が大幅にダウンした。何十億かけて開発したパッケージが売れない。かつて、CDがLPを駆逐してしまったような勢いである。バンダイでも、ガンダムロワイヤル(モバゲー上でのゲーム)が、すぐ300万ユーザになった。
⑥NTTドコモにおけるプロジェクトの成功の秘訣は何でしたか:
周りは皆理系の人間ばかりだったので、私の役割は触媒なようなものと思った。プロジェクトリーダの榎さんは大組織を動かすのに私をうまく活用した。異化作用、異なるバックグランドの人が来たことによって、化学変化が起こった。私がアイデアをどんどん出すと肉付けしてくれる人が出てくる。違うジャンルの人と付き合うことが大切だと思う。
⑦理系の人間に対する感想とアドバイスをください:
政府の科学技術会議に出たときは、非常に緊張した。ノーベル賞受賞者が出席する会議にて、24兆円の予算を5年間でどう配分するかを決める。理系の優秀な方は話に無駄がない。理系人間は大好き。これからの時代は、科学技術が分からないとつらいと思う。皆さん自信を持って行ってください。ただ、ジョブスは技術だけでは十分でないと言っている。科学技術者にはリベラルアーツや人間性と組み合わせることによって、心が歌をかなでるような結果が生み出せる。
⑧コミュニケーション能力について感ずるところを教えてください:
やるべき仕事が分かりにくくなっている。仕事の能力は1つではない。誠実さは重要、きちんと遂行することは重要。しかし、上に行くほど、コミュニケーション能力は必要となる。色々ある能力のひとつであるが、ユーザの要求をくみ上げる共感力、それを相手の心に伝えることが重要となってくる。訓練である。問題意識を持っているかどうか重要。
⑨今現在こうしたらよいというアドバイスはありますか:
私はもの書くようにしている。読書も大切。日記は自分とのコミュニケーション、読書は著者とのコミュニケーション。日頃の関心事・気付いたことを記録している。あと、よく観察してほしい。話の中から、何かひとつでも掴むようにしてほしい。メンター(よき指導者)を持ってほしい。よきメンターは人生をとても豊かにしてくれる。
⑩ブレーンストーミングから2つのコンセプトが出た過程を教えてください:
6ヶ月間、ずっと延々と議論した。多彩な人が集まり、最初は群盲評像であったが、やっている中で見えてきた。楽しくありたいよね、とかテレビの話になったり、情報を仕分けできたらいいよねとか、様々やっているうちに、きたきた~という瞬間がやってきた。
⑪携帯にすべてが集約されるという理想はどのくらい実現されているでしょうか:
まだまだ、不都合はたくさんある。もっとよくなる社会が来ると思う。ラクに楽しくできる、もっとこうなったら嬉しくなるということは何時も考えている。i モ-ドを開発したとき、ろうあ者から携帯電話の中に自分たちの耳と口が入ったと言われたときは、すごく嬉しかった。スーパーエリートのためではなく、弱者や老人たちにも快適なものになっていってほしいと思っている。
⑫バンダイの異化作用の功罪について教えてください:
外からの視点が必要であり、違う発想を入れていくべきである。多様性が必要。純血主義では、この大きな変化の中ではやっていけないと思う。
⑬安心感というものついて教えてください:
情報でコントロールされるというのは、危険であり、セキュリティが必要。指紋と虹彩と音声を掛け合わせれば、より安全になるのではないだろうか。目と目の間とか骨格とかを組み合わせてみたらとも話をしている。携帯に個人情報を入れておき、ホームドクターとつながるようなしくみに対して、もっとクリエィティブな発想が必要。危険だと言うと発想が止まってしまうと思う。
本日は、皆さんが傾聴力を持ってしっかり聞いてくださったおかげで、私もとても集中して話すことができました。どうもありがとうございました。

by sakuraimac
| 2011-11-15 19:38
| 講演会
|
Comments(1)
一般の方からの感想が寄せられていましたので要約をご紹介いたします。
・・・・・・・
松永さんを近くで拝見できて、とても身になるお話を聞く事ができました。
私はNTTドコモで派遣社員として働いていましたが、仲間から「iモード事件」という本を借りて読み、それから松永真理さんという方にとても惹かれました。「なぜ仕事をするの?」も購入し、バイブルのように時折読み返しています。いつもブログ等で講演があったことを後に知るばかりだったのですが、今回初めて事前に知ることができ、参加することができました。
著者本人の口から実際に当時の思いや苦労のお話を聞くと、改めてどれだけ大変だったかを実感しました。また、発想の豊かさには本当に脱帽でした。
「コミュニケーション能力」もとても大切だと思いました。松永さんは訓練とおっしゃっていたので、これからもがんばっていこうと思います。
学生さんたちにも今回の講演が未来へ繋がる点の一つになればと思います。
私も今回松永さんから頂いたパワーで、仕事をがんばっていきたいと思います。
・・・・・・・・
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松永さんを近くで拝見できて、とても身になるお話を聞く事ができました。
私はNTTドコモで派遣社員として働いていましたが、仲間から「iモード事件」という本を借りて読み、それから松永真理さんという方にとても惹かれました。「なぜ仕事をするの?」も購入し、バイブルのように時折読み返しています。いつもブログ等で講演があったことを後に知るばかりだったのですが、今回初めて事前に知ることができ、参加することができました。
著者本人の口から実際に当時の思いや苦労のお話を聞くと、改めてどれだけ大変だったかを実感しました。また、発想の豊かさには本当に脱帽でした。
「コミュニケーション能力」もとても大切だと思いました。松永さんは訓練とおっしゃっていたので、これからもがんばっていこうと思います。
学生さんたちにも今回の講演が未来へ繋がる点の一つになればと思います。
私も今回松永さんから頂いたパワーで、仕事をがんばっていきたいと思います。
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