2012年 05月 20日
戦略 |
経済雑誌や企業の報告などを見ていると、「戦略」とう言葉が大変よく出てくる。おそらく、ビジネスの世界でも最も多用されている言葉のひとつではないかという気がする。
試しに「戦略」という言葉を調べてみたら、Google 検索数で7,700万件、Amazon 書籍数で 13,532件、日立ホームページ内キーワード検索数で 16,800件、NTTホームページ内キーワード検索数で 10,569件、という結果となった。予想以上の多さに驚いた。
戦略というのは、戦争の中から生まれてきた言葉で、けっこう重い意味合いの言葉であるが、企業においては「よく調べて検討して勝てる作戦方針を立案する」くらいの意味において、ごく軽い感覚で使われているようだ。だから、戦略と戦術がしばしば混同されていると思うような場面にもよく出くわす。
会社時代に、大変すぐれた仕事をした上司がいて、戦略4層構造論というものを教わった。それは、戦略とは次の4層からなるというものである。
1. Philosophy (思想、目的)
2. Policy(方針)
3. Strategy(戦略)
4. Tactics(戦術)
何か問題が起こったときは、常に上位の概念に立ち戻って単純に考えればよい、というのが彼の教えであった。これは大変参考になる思考法であると思った。この4つが明確になっていれば、まず、人は迷うことも負けることもないであろう。
ところが、現実は、中々そう簡単にはいかない。一番多いのが最上位の思想・目的がはっきりしない、すなわちPhilosophy がない場合である。この場合はその下位の方針がコロコロと変わる。これは典型的な失敗・負けパターンである。
さて、上位の2つがある程度明確になっている場合には、いよいよ戦略の出番である。ところが、この戦略というのは、本当の意味で、公に語られることは非常に少ない。敵をあざむくにはまず味方をあざむけと言われ、謀略・調略などというのもこの範疇に入るからである。
第二次大戦中に、英国のコヴェントリーという町がナチスドイツによって大規模な空爆を受けた。英国は直前にドイツ軍が用いていた暗号エニグマの解読に成功し、その情報を事前に察知していた。しかしながら、来たるノルマンディ上陸作戦に備えて、暗号解読に成功したことをドイツ側に悟られないことが、戦略上の最大の要とされた。このため、チャーチル首相は、コヴェントリー市民には空襲警報を出さずに、市民3000人を犠牲にしたと言われる事件である。この話の真偽はさだかではないが、おそらく永遠に真実は明らかにはされないだろう。それが、戦略というものの持つ一面でもある。
戦史を色々読んでみると、ビジネスの世界で「戦略」という言葉があまりに簡便に使われすぎていることに、ちょっと違和感を感ずる。
田坂広志氏の言葉に、「戦略とは語り得ぬもの、一回性を前提としたアートである。画家にとってある心象風景を与える対象はただ一回しかないのと同様に、ある判断を求める局面はただ一回しかない。」というものがある。
戦略の本質をアートに例える言葉に一瞬とまどうが、よく考えてみるとこれは卓見だと思う。「戦略とはただ一回しかない、語り得ぬもの」という言葉は真実のような気がする。本来なら語り得ぬものが、安易に一般論として語られすぎているのではないだろうか。まして、教科書になるようなものでは決してないだろう。
戦争の場面とビジネスの場面では、言葉の定義が全く異なるのだと割り切ってしまえば、そう目くじらを立てるほどのことでもないのかもしれないが、やはり何かスッキリしない思いが残るのは私だけなのであろうか。
本当の戦略的思考を持った人は、おそらく戦略という言葉は決して使わないに違いない。それが、そのまま2度通用するものではないことをよく知っているはずだから。
試しに「戦略」という言葉を調べてみたら、Google 検索数で7,700万件、Amazon 書籍数で 13,532件、日立ホームページ内キーワード検索数で 16,800件、NTTホームページ内キーワード検索数で 10,569件、という結果となった。予想以上の多さに驚いた。
戦略というのは、戦争の中から生まれてきた言葉で、けっこう重い意味合いの言葉であるが、企業においては「よく調べて検討して勝てる作戦方針を立案する」くらいの意味において、ごく軽い感覚で使われているようだ。だから、戦略と戦術がしばしば混同されていると思うような場面にもよく出くわす。
会社時代に、大変すぐれた仕事をした上司がいて、戦略4層構造論というものを教わった。それは、戦略とは次の4層からなるというものである。
1. Philosophy (思想、目的)
2. Policy(方針)
3. Strategy(戦略)
4. Tactics(戦術)
何か問題が起こったときは、常に上位の概念に立ち戻って単純に考えればよい、というのが彼の教えであった。これは大変参考になる思考法であると思った。この4つが明確になっていれば、まず、人は迷うことも負けることもないであろう。
ところが、現実は、中々そう簡単にはいかない。一番多いのが最上位の思想・目的がはっきりしない、すなわちPhilosophy がない場合である。この場合はその下位の方針がコロコロと変わる。これは典型的な失敗・負けパターンである。
さて、上位の2つがある程度明確になっている場合には、いよいよ戦略の出番である。ところが、この戦略というのは、本当の意味で、公に語られることは非常に少ない。敵をあざむくにはまず味方をあざむけと言われ、謀略・調略などというのもこの範疇に入るからである。
第二次大戦中に、英国のコヴェントリーという町がナチスドイツによって大規模な空爆を受けた。英国は直前にドイツ軍が用いていた暗号エニグマの解読に成功し、その情報を事前に察知していた。しかしながら、来たるノルマンディ上陸作戦に備えて、暗号解読に成功したことをドイツ側に悟られないことが、戦略上の最大の要とされた。このため、チャーチル首相は、コヴェントリー市民には空襲警報を出さずに、市民3000人を犠牲にしたと言われる事件である。この話の真偽はさだかではないが、おそらく永遠に真実は明らかにはされないだろう。それが、戦略というものの持つ一面でもある。
戦史を色々読んでみると、ビジネスの世界で「戦略」という言葉があまりに簡便に使われすぎていることに、ちょっと違和感を感ずる。
田坂広志氏の言葉に、「戦略とは語り得ぬもの、一回性を前提としたアートである。画家にとってある心象風景を与える対象はただ一回しかないのと同様に、ある判断を求める局面はただ一回しかない。」というものがある。
戦略の本質をアートに例える言葉に一瞬とまどうが、よく考えてみるとこれは卓見だと思う。「戦略とはただ一回しかない、語り得ぬもの」という言葉は真実のような気がする。本来なら語り得ぬものが、安易に一般論として語られすぎているのではないだろうか。まして、教科書になるようなものでは決してないだろう。
戦争の場面とビジネスの場面では、言葉の定義が全く異なるのだと割り切ってしまえば、そう目くじらを立てるほどのことでもないのかもしれないが、やはり何かスッキリしない思いが残るのは私だけなのであろうか。
本当の戦略的思考を持った人は、おそらく戦略という言葉は決して使わないに違いない。それが、そのまま2度通用するものではないことをよく知っているはずだから。
by sakuraimac
| 2012-05-20 20:51
| 社会
|
Comments(2)
日常のビジネスシーンで明確に「戦略」を定義づけて使ったケースは多くはない。言葉の定義に厳しい上司に「それは戦略ではなく戦術だ!今は戦略の話しをしているのだ。」と叱責されたことは何度かあるが・・・。戦争に事例をとった組織論・戦略論で面白かった本は、野中郁
二郎他の「失敗の本質」と、渡部昇一先生の「ドイツ参謀本部」でした。
少し古い本ですが、名著で今も多くのビジネスマンに影響を与えています。
二郎他の「失敗の本質」と、渡部昇一先生の「ドイツ参謀本部」でした。
少し古い本ですが、名著で今も多くのビジネスマンに影響を与えています。
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sakuraimac at 2012-05-21 13:36
jayjayさん、いつも有用なコメントありがとうございます。
「失敗の本質」と、「ドイツ参謀本部」の2冊は、私も名著だと思います。「失敗の本質」はその紹介本が、最近、ビジネス書としてかなり売れているようです。(原著は中々の大作なので読破するのはちょっとしんどいですものね。)
「ドイツ参謀本部」は、地味な本ですが、渡部氏の数々の著作の中でも一番の傑作だと私は思っています。そのうち、このブログでもぜひ紹介したいものと思っています。
「失敗の本質」と、「ドイツ参謀本部」の2冊は、私も名著だと思います。「失敗の本質」はその紹介本が、最近、ビジネス書としてかなり売れているようです。(原著は中々の大作なので読破するのはちょっとしんどいですものね。)
「ドイツ参謀本部」は、地味な本ですが、渡部氏の数々の著作の中でも一番の傑作だと私は思っています。そのうち、このブログでもぜひ紹介したいものと思っています。