2013年 01月 31日
サムスン電子と韓国経済 |
韓国というと、何となく頑張っているなあという印象がある。日本の女子ゴルフトーナメントで上位に来るのは韓国人が目立つし、韓流スターと韓流ドラマは大人気、アイドルグループも韓国のほうが、AKBより垢抜けて見えるのは私だけの感想だろうか。
産業的には、何といっても、かつては輝いていた日本の家電メーカを苦境に落としこんだサムスン電子の存在はとてつもなく大きい。世界中に事業を展開し、企業規模もブランド力においても、SONY、Panasonic を大きく上回り世界有数の超一流企業となっている。2012年の世界企業のブランドランキングでは、サムスンが8位、Canon 30位、SONY 40位、Panasonic 65 位である。 今週の日経新聞に載っていた家電分野における企業時価総額に至っては驚くべき差がついている。(もっとも時価総額というのは、株価とおなじなのであまりあてになる数字ではないが、ここまで差が広がっているのを見ると唖然としてしまう。)
かつて、電機会社で働いていた者としても、サムスン電子という会社は何とも無視し難い存在である。サムスン電子の歴史を見てみると、日本の企業に学び、徹底的に日本の技術を取り入れ、そして日本の進出していない地域において特化して事業を展開し、最後はウォン安で日本企業にとどめを刺したという感が否めない。
そこには、ソニーやAppleのような、新しい物や価値を生み出してきた先進優良企業としての姿はあまり見えてこない。現在、圧倒的な存在感を示すスマートフォンの分野においても、内容はほとんどApple 社をそっくり真似たものである。(実際にデザイン訴訟でも負けている。)
ただし、企業としてのトップダウンの意思決定の速さには定評がある。DRAM、液晶テレビ、そしてスマーフォンと、市場の変化にすぐさま敏感に対応できる速さは日本の企業にないものがあるようだ。また、外部に対する調査研究にも大変熱心である。日本の大企業が関心を持たない中小企業の技術でも熱心に取り入れようとする。また、日本の大企業があまり注意を払わない大学の研究も熱心に調べている。その研究姿勢には感心する。(ちなみに、私の行っている研究にも学会発表を見て関心を示して訪ねてくる。こちらから売り込みにいっても中々関心を示さない日本の企業とは大変な差がある。関心を持ってくれることは、研究者として大変嬉しい思いがするものだ。)
ところで、日本企業にとっての最大の脅威は、人材の捕獲だろう。これと目をつけた人材は破格の好待遇で引き抜く。私の会社時代の先輩や同僚でもサムスン電子に移籍した人はずいぶんと多い。日本の家電メーカの大規模なリストラを前にして、優秀な人材がサムスンに流れて、これからますます企業としての差がついていくのではないかと心配する声は多い。
ただ、日本の家電メーカを苦境に追い込んだサムスン電子に移るということは、技術者個人としてはかなり心理的には微妙なところがあるようだ。
この問題に関して、池上彰氏が東工大において、「君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか?」という題目をあげて中々面白いディベートを実施している。
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO45514050Z20C12A8000000/
学生なので、求められるところに移るのは当然という意見が最初は圧倒的に多い。ところが、だんだんと日本を裏切っているような気もするとの少数意見も出てくる。
実際に、破格の高待遇や自分の技術力が求められているという魅力と、結果的に日本企業を裏切ることになるという後ろめたさの感情の間で、悩んだ技術者も多かったと思う。ただ、活躍できる場を与えることのできない日本の企業にも大いに責任はあるわけであり、それを個人の愛国心の問題にすり替えるとしたら、それは全くフェアではないと言える。(感情的には私自身は愛国主義ではあるのだが・・・)
ところで、最近の経済雑誌を見ると韓国の経済に対して厳しい見方をする記事が多い。韓国の経済を引っ張っているのは、サムスン電子、現代自動車、LGエレクトロニクスなどの少数の大企業だけであり、日本のように幅広い裾野の中小産業がほとんど育っていないというのである。
それに応じて大学卒業生の就職難も大変厳しいようであり、「5人卒業生がいれば3人は非正規雇用、1人は就職できない。」という状況とのことである。貧富の格差も大きく、さらに、最近の円安に呼応したウォン高でこれらの産業の先行きは楽観できなくなってきている。
韓国事情に詳しい大前研一氏は次のように書いている。
「韓国の産業が強いというのは大きな誤解。サムスン、LG、現代など突出した経営者がいる財閥系の一部の企業が日本の産業基盤をフルに活用して成長を遂げてきたのが実態だ。この10年くらいをみると自国の産業基盤は育っていない。韓国企業の日本の産業基盤の上での狂い咲きはそう長くは続かないだろう。」
家電分野での徹底的な敗北状態を見ると、にわかには信じがたい言葉でもある。だた、日本の中小企業群の産業基盤の厚さは、昨年、就職担当を1年間やってみて強く肌で実感した。今後、円安傾向が続き日経株価も上昇すれば、日本の将来には少し期待してもよいのかなという希望も沸いてくる。(隣国の不幸を横目にして喜ぶのも気が引けるところもあるのだが・・・)
産業的には、何といっても、かつては輝いていた日本の家電メーカを苦境に落としこんだサムスン電子の存在はとてつもなく大きい。世界中に事業を展開し、企業規模もブランド力においても、SONY、Panasonic を大きく上回り世界有数の超一流企業となっている。2012年の世界企業のブランドランキングでは、サムスンが8位、Canon 30位、SONY 40位、Panasonic 65 位である。 今週の日経新聞に載っていた家電分野における企業時価総額に至っては驚くべき差がついている。(もっとも時価総額というのは、株価とおなじなのであまりあてになる数字ではないが、ここまで差が広がっているのを見ると唖然としてしまう。)
かつて、電機会社で働いていた者としても、サムスン電子という会社は何とも無視し難い存在である。サムスン電子の歴史を見てみると、日本の企業に学び、徹底的に日本の技術を取り入れ、そして日本の進出していない地域において特化して事業を展開し、最後はウォン安で日本企業にとどめを刺したという感が否めない。
そこには、ソニーやAppleのような、新しい物や価値を生み出してきた先進優良企業としての姿はあまり見えてこない。現在、圧倒的な存在感を示すスマートフォンの分野においても、内容はほとんどApple 社をそっくり真似たものである。(実際にデザイン訴訟でも負けている。)
ただし、企業としてのトップダウンの意思決定の速さには定評がある。DRAM、液晶テレビ、そしてスマーフォンと、市場の変化にすぐさま敏感に対応できる速さは日本の企業にないものがあるようだ。また、外部に対する調査研究にも大変熱心である。日本の大企業が関心を持たない中小企業の技術でも熱心に取り入れようとする。また、日本の大企業があまり注意を払わない大学の研究も熱心に調べている。その研究姿勢には感心する。(ちなみに、私の行っている研究にも学会発表を見て関心を示して訪ねてくる。こちらから売り込みにいっても中々関心を示さない日本の企業とは大変な差がある。関心を持ってくれることは、研究者として大変嬉しい思いがするものだ。)
ところで、日本企業にとっての最大の脅威は、人材の捕獲だろう。これと目をつけた人材は破格の好待遇で引き抜く。私の会社時代の先輩や同僚でもサムスン電子に移籍した人はずいぶんと多い。日本の家電メーカの大規模なリストラを前にして、優秀な人材がサムスンに流れて、これからますます企業としての差がついていくのではないかと心配する声は多い。
ただ、日本の家電メーカを苦境に追い込んだサムスン電子に移るということは、技術者個人としてはかなり心理的には微妙なところがあるようだ。
この問題に関して、池上彰氏が東工大において、「君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか?」という題目をあげて中々面白いディベートを実施している。
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO45514050Z20C12A8000000/
学生なので、求められるところに移るのは当然という意見が最初は圧倒的に多い。ところが、だんだんと日本を裏切っているような気もするとの少数意見も出てくる。
実際に、破格の高待遇や自分の技術力が求められているという魅力と、結果的に日本企業を裏切ることになるという後ろめたさの感情の間で、悩んだ技術者も多かったと思う。ただ、活躍できる場を与えることのできない日本の企業にも大いに責任はあるわけであり、それを個人の愛国心の問題にすり替えるとしたら、それは全くフェアではないと言える。(感情的には私自身は愛国主義ではあるのだが・・・)
ところで、最近の経済雑誌を見ると韓国の経済に対して厳しい見方をする記事が多い。韓国の経済を引っ張っているのは、サムスン電子、現代自動車、LGエレクトロニクスなどの少数の大企業だけであり、日本のように幅広い裾野の中小産業がほとんど育っていないというのである。
それに応じて大学卒業生の就職難も大変厳しいようであり、「5人卒業生がいれば3人は非正規雇用、1人は就職できない。」という状況とのことである。貧富の格差も大きく、さらに、最近の円安に呼応したウォン高でこれらの産業の先行きは楽観できなくなってきている。
韓国事情に詳しい大前研一氏は次のように書いている。
「韓国の産業が強いというのは大きな誤解。サムスン、LG、現代など突出した経営者がいる財閥系の一部の企業が日本の産業基盤をフルに活用して成長を遂げてきたのが実態だ。この10年くらいをみると自国の産業基盤は育っていない。韓国企業の日本の産業基盤の上での狂い咲きはそう長くは続かないだろう。」
家電分野での徹底的な敗北状態を見ると、にわかには信じがたい言葉でもある。だた、日本の中小企業群の産業基盤の厚さは、昨年、就職担当を1年間やってみて強く肌で実感した。今後、円安傾向が続き日経株価も上昇すれば、日本の将来には少し期待してもよいのかなという希望も沸いてくる。(隣国の不幸を横目にして喜ぶのも気が引けるところもあるのだが・・・)
by sakuraimac
| 2013-01-31 14:26
| 社会
|
Comments(2)
当該意見に対し2つの視点を提示してみたい。1)国際競争力と為替: リーマンショック前の2007~08年頃は100w=12~13円前後。2012年は7円前後で推移している。両国の輸出産業にとってこの変動幅は尋常でない。現実は部材の輸入や現地生産等もあり企業競争力を為替のみで単純比較できないが、日本の輸出産業は韓国Wに対し5割程度切り上がった円で市場競争をしていたことになる。2)韓国経済の財閥依存体質:2011年韓国財閥企業10社のGDPに占める割合は7割を超えている。02年が5割程度であるから財閥企業への依存率が極めて高い経済体制の国と言える。 この2点を見ても大前氏の意見は今後の韓国経済を占う一つの見方と言える。 一方、戦後の一時期Made in Japan が粗悪品の代名詞であったように、韓国製もそういう時代があった。しかし昨今のデザイン・品質等総合ブランド力を見れば凄まじい研究・努力を国家・企業が行っており日本企業を凌駕している分野があることも認めざるを得ないが、為替等事業環境や競争分野も変わり、日本家電復活のチャンスはまだあると信じている。
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sakuraimac at 2013-02-01 07:25
jayjayさん、コメメントありがとうございます。具体的なデータ、大変参考になりますね。こんなに厳しい為替レートで、日本の家電メーカーは韓国と競っていたのですね。負けて当然ですよね。円安、大いに期待したいところです。あと日本のの産業構造の厚みも改めて再認識いたします。何か元気が出てきます。あと、学生の大企業志向が少しでも緩んでくれればと期待したいところです。