2013年 11月 20日
半導体技術と集積回路 |
自分が大学で受け持っている授業のひとつに、「集積回路設計」というものがある。
現在のIT・情報通信の発展と、それが我々の生活に及ぼす影響には著しいものがあるが、それらの基本原理というものは、20世紀半ばのチューリング、ノイマン、シャノンらによってほぼ完成されている。IT・情報通信の分野では、全く新しい基礎概念というものは、この半世紀間にはほとんど生まれていないような気がする。(インターネットは例外かもしれないが)
IT・情報通信技術が、我々の生活を大きく変えるようになったのは、集積回路の驚異的な発達に非常に大きく依存している。「集積回路設計」の講義の前に、いつもスライドで学生に説明していることがある。それは、1946年に作られた世界初のコンピュータENIACと、今日、我々が日常生活で使っているノートPCとの比較である。
コンピュータの基本原理は変わっていないが、ENIACとノートPCの能力差は、4桁から7桁にも及ぶ。これらのものすごい数値を実現しているのは、わずか1Cm四方のシリコンチップ上に、数億個ものトランジスタを集積した大規模集積回路(LSI)のおかげである。
数億個の素子といっても、ちょっと普通の人には想像がつかないと思うが、1個のトランジスタ素子の大きさが、電子顕微鏡で見られるウィルスよりも小さいと言えば、そのイメージを思い浮かべる手助けになるかもしれない。
このLSIを作るための技術というものには、この半世紀間の研究および技術開発者達のものすごい知恵が詰まっている。講義をしているときにも、その技術のすごさに自分自身が思わず感嘆してしまうことがある。
この驚異のLSI技術の発展に大きく貢献し、大規模な産業として育ててきたのは日本である。1980年代の日本の半導体メーカは世界を席巻していた。上位10社の中では日本のメーカは実に6社が占めていた。ところが、時代は変わりその30年後の今、日本の半導体メーカは苦難に直面し、事業撤退と大規模リストラの嵐に見舞われている。
講義では、日本の半導体産業の歴史も学生に紹介しているだが、さすがに今年はその紹介にも躊躇してしまう。
半導体技術は、まだまだ飽和には達しておらず、3次元LSI、SiC(炭化ケイ素)など次世代の技術が控えている。しかしながら、事業面での規模の競争に勝てずに、日本メーカーの撤退があいつぐ。これだけの素晴らしい技術を持っていながら、その技術者たちが路頭に迷うなどということは、誠に残念極まりないことである。
大手企業のリストラはマスコミをにぎわしており、もう日本の半導体産業は将来は無いような論調もある。ただし、実はその一方では、健闘している日本メーカも少なくない。その一端をちょっとここでは紹介してみたい。(主な出典は日経エレクトロニクス誌 2013-11-11号)
1. 東芝セミコンダクター社:
国内1位、世界でも6位の地位を保っており、NANDフラッシュメモリでは、サムスン電子と互角の勝負をして大健闘している。半導体の中途技術者も大量に採用しており、日本の半導体企業の最大のホープである。
2. デンソー:
絶好調の自動車産業(トヨタ)の電子化にともない、半導体技術者を大量に採用している。苦境にある富士通セミコンダクター社の岩手工場を社員ごと買収している。
3. ジェイデバイス:
各社がもはや不要とする国内各地の後工程拠点を次々と買収し、国内最大の後工程メーカ(OSAT)となっている。台湾勢がひしめくOSAT業界において、トップ5の地位をねらう。
5. エルピーダメモリ:
財政破綻で、米国Micron Technology 社に買収されたが、モバイル用のDRAMが好調であり、エルビーダ社員は一人も解雇されておらず、Micron+旧エルピーダは、サムスン電子を追い世界一の座を狙う規模の会社となった。(坂本幸雄社長は退陣したが、私は彼はりっぱだったと思う。)
こういう元気のある半導体メーカの話を聞くと少しホッとする。集積回路の講義は学生の将来に役に立つのだろうかという、私のかすかな不安感も払拭される。日本の半導体産業の復活を心から願う思いである。
今日も、集積回路の中でも最も重要な、MOSトランジスタの動作解析という部分の講義を終えて、講義資料のスライドを貼り付けてこの記事を書いている。半導体産業の復権を願いつつ。
現在のIT・情報通信の発展と、それが我々の生活に及ぼす影響には著しいものがあるが、それらの基本原理というものは、20世紀半ばのチューリング、ノイマン、シャノンらによってほぼ完成されている。IT・情報通信の分野では、全く新しい基礎概念というものは、この半世紀間にはほとんど生まれていないような気がする。(インターネットは例外かもしれないが)
IT・情報通信技術が、我々の生活を大きく変えるようになったのは、集積回路の驚異的な発達に非常に大きく依存している。「集積回路設計」の講義の前に、いつもスライドで学生に説明していることがある。それは、1946年に作られた世界初のコンピュータENIACと、今日、我々が日常生活で使っているノートPCとの比較である。
コンピュータの基本原理は変わっていないが、ENIACとノートPCの能力差は、4桁から7桁にも及ぶ。これらのものすごい数値を実現しているのは、わずか1Cm四方のシリコンチップ上に、数億個ものトランジスタを集積した大規模集積回路(LSI)のおかげである。
数億個の素子といっても、ちょっと普通の人には想像がつかないと思うが、1個のトランジスタ素子の大きさが、電子顕微鏡で見られるウィルスよりも小さいと言えば、そのイメージを思い浮かべる手助けになるかもしれない。
このLSIを作るための技術というものには、この半世紀間の研究および技術開発者達のものすごい知恵が詰まっている。講義をしているときにも、その技術のすごさに自分自身が思わず感嘆してしまうことがある。
この驚異のLSI技術の発展に大きく貢献し、大規模な産業として育ててきたのは日本である。1980年代の日本の半導体メーカは世界を席巻していた。上位10社の中では日本のメーカは実に6社が占めていた。ところが、時代は変わりその30年後の今、日本の半導体メーカは苦難に直面し、事業撤退と大規模リストラの嵐に見舞われている。
講義では、日本の半導体産業の歴史も学生に紹介しているだが、さすがに今年はその紹介にも躊躇してしまう。
半導体技術は、まだまだ飽和には達しておらず、3次元LSI、SiC(炭化ケイ素)など次世代の技術が控えている。しかしながら、事業面での規模の競争に勝てずに、日本メーカーの撤退があいつぐ。これだけの素晴らしい技術を持っていながら、その技術者たちが路頭に迷うなどということは、誠に残念極まりないことである。
大手企業のリストラはマスコミをにぎわしており、もう日本の半導体産業は将来は無いような論調もある。ただし、実はその一方では、健闘している日本メーカも少なくない。その一端をちょっとここでは紹介してみたい。(主な出典は日経エレクトロニクス誌 2013-11-11号)
1. 東芝セミコンダクター社:
国内1位、世界でも6位の地位を保っており、NANDフラッシュメモリでは、サムスン電子と互角の勝負をして大健闘している。半導体の中途技術者も大量に採用しており、日本の半導体企業の最大のホープである。
2. デンソー:
絶好調の自動車産業(トヨタ)の電子化にともない、半導体技術者を大量に採用している。苦境にある富士通セミコンダクター社の岩手工場を社員ごと買収している。
3. ジェイデバイス:
各社がもはや不要とする国内各地の後工程拠点を次々と買収し、国内最大の後工程メーカ(OSAT)となっている。台湾勢がひしめくOSAT業界において、トップ5の地位をねらう。
4. ソニー:
デジカメやスマホのカメラのCMOSセンサーでは、世界で30%の圧倒的シェアを占めるトップメーカである。需要増に備えて、苦境にあるルネサスの鶴岡工場の買収を検討中。
5. エルピーダメモリ:
財政破綻で、米国Micron Technology 社に買収されたが、モバイル用のDRAMが好調であり、エルビーダ社員は一人も解雇されておらず、Micron+旧エルピーダは、サムスン電子を追い世界一の座を狙う規模の会社となった。(坂本幸雄社長は退陣したが、私は彼はりっぱだったと思う。)
こういう元気のある半導体メーカの話を聞くと少しホッとする。集積回路の講義は学生の将来に役に立つのだろうかという、私のかすかな不安感も払拭される。日本の半導体産業の復活を心から願う思いである。
今日も、集積回路の中でも最も重要な、MOSトランジスタの動作解析という部分の講義を終えて、講義資料のスライドを貼り付けてこの記事を書いている。半導体産業の復権を願いつつ。
by sakuraimac
| 2013-11-20 23:08
| 科学技術
|
Comments(2)
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トライボロジスト
at 2015-03-18 20:46
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今のIT社会は空想ばかり、なんだなあと思いきや、日立金属製の高性能工具鋼の話を、外注先の人間からの報告で吹っ飛んだ。「この鋼材、ダイヤモンドダイスよりももちまっせ・」大阪はいいところだと思った。人間関係さえあればどんな職種でも素直な話が舞い込んでくる。
この鋼材SLD-MAGICというようだが、発明者は色々な学会でメカニズムを提示して、議論を戦わせている最中だが、国家付属機関が素晴らしい成果と発表し、よくある末路をたどるよりこの博士のほうが現象解析に忠実だと思う。
この鋼材SLD-MAGICというようだが、発明者は色々な学会でメカニズムを提示して、議論を戦わせている最中だが、国家付属機関が素晴らしい成果と発表し、よくある末路をたどるよりこの博士のほうが現象解析に忠実だと思う。
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sakuraimac at 2015-03-20 16:43
トライボロジストさん、コメントありがとうございます。
SLD-MAGIC 調べてみました。日立金属なのですね。何か面白そうな話がありそうですね。情報どうもありがとうございました。もう少しいただけませんか?
SLD-MAGIC 調べてみました。日立金属なのですね。何か面白そうな話がありそうですね。情報どうもありがとうございました。もう少しいただけませんか?